抄録
【はじめに、目的】高齢者では,転倒予防の観点からバランスの評価は重要であり,その評価に片脚立位を用いることが多い.川添らは片脚立位と転倒の関連性について,高齢者では年齢の増加にともない立位バランスが不良となり片脚立位時間の短縮を認め転倒の危険性が増すと述べている.また竹林らは,若年者に対する足関節運動と片脚立位の関係について足関節運動後,片脚立位時における重心動揺が減少したと報告している.これらのことから足関節運動により片脚立位を安定させることは転倒リスクの軽減につながると考えられるものの,高齢者において足関節運動が片脚立位に及ぼす影響は明らかでない.そこで今回高齢者における足関節運動が片脚立位に及ぼす影響を明らかにすることを本研究の目的とした.【方法】対象は,下肢に運動機能障害を持たず日常生活の自立している健常高齢者28 名(男性10 名,女性18 名,71.3 ± 5.1 歳)とし,足関節背屈運動を実施する背屈群,足関節外反運動を実施する外反群,運動介入を行なわない非運動群の3 群に無作為に群分けした.片脚立位の計測は利き足を対象として運動前後に各2 回実施し,下肢筋活動及び重心動揺,足底接地面積,足圧中心位置を計測し,運動前(1 回目,2 回目)の値に対する運動後(3 回目,4 回目)の値の比率を3 群間で比較検討した.計測姿勢は上肢体側下垂位,遊脚側下肢は身長の15%の高さまで挙上し20 秒間保持させた.片脚立位時の下肢筋活動の測定には表面筋電計(NORAXON社製TELEMYO 2400 TG2)を用い,被検筋は腓腹筋(内側),前脛骨筋,腓骨筋とした.表面筋電図は片脚立位開始後5 秒から10 秒までの5 秒間を解析対象とし、その間の平均積分値を等尺性随意最大筋力発揮時の筋活動で除して正規化した.重心動揺,足底接地面積,足圧中心位置の測定には,Footview Clinic(NITTA社製)を用い,解析は片脚立位開始後5 秒から15 秒までの10 秒間とした.運動姿勢は,端坐位(股関節・膝関節90°屈曲位)で代償運動が生じない様に大腿,下腿をベルトで固定し足底を床面から離し行った.各運動の運動範囲は,背屈群を背屈最終域,外反群を底屈30°・回内・外転最終域とし自動運動にて60 回/分の速度にて40 回行わせた.統計学的分析は,一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用いて行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った.尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている.【結果】片脚立位時の筋活動は,2 回目に対する3 回目の比率において,非運動群に対し背屈群で腓骨筋の活動に有意な減少が認められた(P<0.01).また2回目に対する4回目の比率において,非運動群に対し外反群で前脛骨筋の活動に有意な減少が認められた(P<0.01).重心動揺,足底接地面積,足圧中心位置には各群ともに有意な差は認められなかった.【考察】今回,運動介入前後の重心動揺,足底接地面積,足圧中心位置に変化は認めなかった.竹林らは運動介入方法として足関節底屈運動を行った結果,片脚立位時の重心動揺が減少したと述べている.Lin&Woollacottは若年者と比べ高齢者では立位時の外乱刺激に対し腓腹筋の活動は同程度であったが前脛骨筋の活動は有意に小さかったと述べている.これらのことから,高齢者では片脚立位において腓腹筋を中心に立位保持制御をしているため,前脛骨筋の活動の影響は少なく,背屈運動介入により変化を及ぼさなかったと考える.またDayらは,立位時の内外側方向の安定性は足関節ではなく,股関節と体幹で制御していると述べており,片脚立位においても内外側方向の安定性については足関節の働きが小さく,本研究で実施した外反運動では変化を認めなかったと考える.しかし,外反運動後,前脛骨筋の活動に有意な減少を示し,背屈運動後,腓骨筋の活動に有意な減少が認められた.緒方らは,随意的足関節背屈時において相反抑制機序が関与し,拮抗筋であるヒラメ筋から導出されるH波振幅が減少したと報告している.今回,足関節外反運動は腓骨筋の収縮を誘発するため徒手筋力検査法に順じて底屈を伴う外がえし運動を行った.そのため,足関節背屈ならびに内がえしの作用をもつ前脛骨筋に相反抑制機序が働き,筋活動が減少したと考える.また,足関節背屈運動においても,相反抑制機序が働き,腓骨筋の活動が減少したと考える.【理学療法学研究としての意義】片脚立位を安定させることは転倒リスクの軽減につながる為,適切な運動プログラムを立案することは重要であると考えられる.