抄録
【はじめに】当院では肩腱板断裂に対して鏡視下腱板修復術(以下ARCR)が多く、術後早期の疼痛管理は患者の主訴と関連することも多いため重要であると考えている。また術後疼痛の残存は、その後の可動域獲得の遅延やADL低下に関与することが報告されている。ARCR後の疼痛に関連する因子の報告は多く散見されるが手術施設によって異なる印象があったので、今回当院における術後2週間の安静時痛と夜間時痛の経過を把握すること、またその経過に関連すると考えた病歴や術前の臨床所見及び、術中の関節内所見や手術操作との関連性について調査したので報告する。【対象と方法】対象は、2010年4月から2011年9月に腱板断裂と診断されARCR目的で入院した120例中、術後2週間の疼痛経過記録を実施できた104例104肩(男性67例、女性37例)、手術時平均年齢は65歳(50-80歳)である。方法は、安静時痛と夜間痛をVASで2週間経過(術前、術後1・4・7・14日)を記録し、2週目の各々の平均値を基準(安静時痛:10未満・10以上、夜間痛:16未満・16以上)に安静時痛のみ残存群(以下S群:7例)、夜間痛のみ残存群(以下N群:19例)、両方が残存群(以下SN群:24例)、両方が軽減群(以下なし群:54例)の4群に分類した。調査項目は、病歴から年齢、性別、左右、外傷歴の4項目、術前臨床所見の安静時痛VAS、夜間痛VAS、術前可動域(屈曲・外転・1st外旋、2nd内旋、2nd外旋)、全麻下可動域と覚醒時可動域の差(屈曲・外転・1st外旋、2nd内旋、2nd外旋)の12項目、術中の関節内所見から腱板断裂形態(関節面・滑液包面断裂、小・中・大・広範囲断裂)、上腕二頭筋腱の状態(正常、充血、不全断裂、完全断裂)、SABの状態(軽度、中等度、重度)、烏口上腕靭帯の状態(正常、異常)の4項目、手術操作から手術時間、腕神経叢ブロック有無、腱板修復法(single、double、bridge)、肩峰下除圧術有無の4項目で計24項目とした。統計処理は年齢、術前可動域(5項目)、安静時痛VAS、夜間痛VAS、全麻下可動域と覚醒時可動域の差(5項目)、手術時間を4群間の比較に多重比較検定(Bonferroni法)を使用し、性別や左右、外傷歴、腕神経叢ブロック有無、腱板断裂形態、上腕二頭筋腱の状態、SABの状態、烏口上腕靭帯の状態、腱板修復法、肩峰下除圧術にはKruskal-Wallis検定を使用して4群間の差を有意水準5%未満として検討した。【倫理的配慮、説明と同意】当院の倫理委員会にて本研究の目的を説明し個人情報使用の同意を得た。また、術前の理学療法開始時に症例に評価の目的と個人情報使用について説明し了承を得て実施した。【結果】各群の疼痛経過は、S群(安静:27・49・25・18・11、夜間:57・73・41・30・11)、N群(安静:11・35・13・6・3、夜間:44・69・40・28・28)、SN群(安静:33・62・36・36・29、夜間:55・82・52・47・38)、なし群(安静:11・36・16・6・1、夜間:34・68・27・12・3)で術前安静時痛、夜間痛ともに手術日の夜間帯から翌日にかけて全例増加するものの2週間かけて全例とも軽減する傾向は示された。術前安静時痛VASでSN群(33.3±26.3)となし群(10.5±16)、N群(11.4±14.4)とSN群(33.3±26.3)間にSN群がなし群に有意に高値を示された(P<0.01)、また、術前夜間痛VASでSN群(55.2±25.5)となし群(34±27.1)間にSN群がなし群に有意に高値を示された(P<0.05)。それ以外の項目との関連性は認められなかった。【考察】術後の疼痛増強は全例に確認できている、これは手術侵襲による炎症症状の増加が要因で、夜間痛にて不眠症状や術後熱発も併発し翌日の安静時痛も高値を示していると考える。全例が軽減傾向を示されたのは疼痛が一次痛であるため修復過程にて経時的に軽減傾向が示されたと考える。今回は調査を行えていないが術後投薬管理やアイシングなどによる炎症軽減も疼痛軽減の一要因として考える。S群、N群、SN群のように疼痛が残存する症例は、病歴や可動域、及び手術操作、術中関節内所見との関連性は低かったが、術前疼痛との関連性が示唆された。疼痛は組織損傷のみならず不快な感覚及び情動体験も含まれるため、術前の疼痛閾値が低い症例は術後も疼痛を感じやすいのではないかと考える。今回の調査からはそれらを関連付ける調査を行えていないので推測の域を脱していない。しかし、疼痛は平均値より高値であっても全例が経時的に軽減していることが重要であり、個人内での変化を捉える事が重要であると考えている。【理学療法学研究としての意義】当院のARCR術後の疼痛の傾向や関連因子を把握することで、当院で手術する患者への適切な助言に活かすことができると考える。術前の疼痛に対して細分化した追究により術前理学療法の有効性を見出していきたい。