抄録
【はじめに、目的】 脳卒中後片麻痺患者においては,体幹・四肢の運動麻痺,感覚麻痺,姿勢認知の障害によりさまざまな姿勢調節の障害が生じる.片麻痺患者においてよくみられる姿勢パターンとしては非麻痺側荷重偏位や後方荷重偏位などが知られている.しかし,臨床においては座面への荷重パターンはこれに限ったものではなく,複雑で多様なものとなっている.このような荷重パターンについて検討していくことは姿勢変位や姿勢調節障害の治療を進める上で重要であるが,荷重パターンについて調査・分析した報告は少ない.そこで本研究の目的は脳卒中後片麻痺患者を対象として,座位における荷重パターンの類型化を行い,その荷重パターンについて明らかにすることとした.【方法】 対象は回復期リハビリテーション病院に入院中の脳卒中後片麻痺患者38名とした.基本属性(平均値±標準偏差)は年齢:64.6±12.3歳,性別:女性15名・男性23名,病型:脳梗塞21名・脳出血17名,発症後病日:117.3±46.6日,Functional Independence Measure(FIM):92.5±23.7点であった.測定肢位はプラットホーム上での座位とし,座面奥行は殿部後面~下腿後面間長,足部は非接地もしくは足部が床面に触れる程度となるように座面高さを調整した.被験者にはできるだけ安楽な座位姿勢を保持するように教示した.測定および分析にはNitta社製座面圧力分布測定システムConform-Light, BPMSを使用し,圧力測定シートを被験者の座面に敷き,座位保持3~5分経過後,5秒間,座面への荷重状態の測定を行った.その後,荷重データを前後・左右(非麻痺側大腿部・麻痺側大腿部・非麻痺側殿部・麻痺側殿部)で4分割し,各面での平均荷重量を算出した.統計分析は各対象の測定データから各分割面の荷重値体重比を変数としてクラスター分析を行い,得られた結果から対象を4群(A・B・C・D群)に分類を行った.その後,各群の荷重左右対称性(麻痺側殿部荷重量体重比/非麻痺側殿部荷重量体重比),荷重前後方向性(大腿部荷重量体重比/殿部荷重量体重比)を従属変数として一元配置分散分析およびScheffeの多重比較により群間の差の検定を行った.有意水準はp=0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施にあたり,被験者もしくはそのご家族に研究の趣旨と測定の方法について説明を行い,協力の同意を得た後に測定を行った.【結果】 クラスター分析の結果による分類はA群7名,B群7名,C群11名,D群13名であり,各群の特徴はA群は左右対称・荷重前方偏倚,B群は麻痺側殿部荷重偏倚,C群は非麻痺側殿部荷重偏倚,D群は後方荷重偏倚となっていた. 各群の殿部荷重の左右対称性はA群:1.1±0.2,B群:1.3±0.3,C群:0.7±0.1,D群:0.9±0.1であり,一元配置分散分析の結果,有意差が見られ,多重比較の結果,A・D群に対し,B群が有意に高く,C群が有意に低い値を示した(p<0.05). また,各群の前後方向性はA群:0.7±0.1,B群:0.5±0.1,C群:0.6±0.1,D群:0.3±0.1であり,一元配置分散分析の結果,有意差が見られ,多重比較の結果,B・C群に対し,A群が有意に高く,D群が有意に低い値を示した(p<0.05). 【考察】 本研究の結果から脳卒中後片麻痺患者の座位の荷重パターンについて,側方変位・後方変位した荷重のパターンの他に左右対称的もしくは比較的前方への荷重をとるパターンの患者も見られ,片麻痺患者における殿部荷重パターンの一つとして,分類されることが明らかとなった.このようなパターンの多様性には各種の機能障害や能力の回復過程における姿勢保持のパターンの変化を反映しているものと考えられる.特に座位における重心コントロールの主座となる体幹・骨盤周囲や股関節周囲の回復過程におけるアライメントや筋緊張の状態の変化,姿勢認知の変容の影響を受けているものと推測される.今後,これらの荷重パターンと機能障害・能力回復過程との関連について検討していく必要があると考える.【理学療法研究としての意義】 脳卒中後片麻痺患者における姿勢調整障害や褥瘡のリスクに対する治療や予防を行っていく上での基礎的な知見として有用となると考える.