理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-25
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ポスター発表
トイレ環境における前方空間の変化が立ち上がり動作に与える影響
小関 紗矢佳藤田 俊文
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抄録
【はじめに、目的】介護保険分野において、住宅改修は高齢者や障害者が安全に生活するために有用な手段の1つである。その中でも、トイレ環境下での便座からの前方空間の確保は、立ち上がり動作に影響を与える1要素であると考えられる。特に洋式便座からの立ち上がり動作では、体幹が前傾し身体を前方へ移動させるため、前方に十分な空間があることにより動作の行いやすさに繋がると推測される。トイレ空間を考慮した立ち上がり動作に関して、先行研究において前方空間の影響を検討している報告は見られているが、実際の便座を使用するなどのトイレ環境に近い設定で行われているものは少ない。また、被験者の身長・座面の形状や高さ・椅子と壁の距離など設定は様々で、統一した環境での比較が行われていないのが現状である。そこで本研究では、よりトイレ環境に近い個室環境を再現し、その内部を観察できる環境を作成した。トイレの便座からの前方距離を変化させた際の立ち上がり動作を運動学的に分析することに加えて、圧迫感・立ち上がりにくさといった主観的評価も実施し、環境が動作と心理面に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は、健常女性19名(年齢20.6±2.7歳、身長160.5±4.6cm、座高82.2±2.6cm、体重56.1±5.6kg)、下肢に重篤な整形外科的疾患を有していない者とした。環境は、一般的なトイレ環境を想定し、前方・側方を壁で囲んだブースを設定した。前方壁は可変式とし、便座からの距離を変化できるようにした。側方壁の一部には塩化ビニル板を使用し、その上から市版のカーフィルム(透過率5%)を貼付し、見えにくいように配慮した。便座は市販の洋式便座(座面高40cm)を使用し、便座中央から側方壁までの距離は40cmとした。また、便座に自作の離殿センサー(便座に1.0~1.5kgの荷重が掛かると点灯)を設置した。側面から観察できるように被験者右半身にマーカー(LEDライト)を貼付し、デジタルカメラでハイスピード動画撮影(300fps)を行った。その後、静止画像に変換した上で関節角度(頚部・体幹・股関節・膝関節・足関節)を測定した。立ち上がりの条件は、便座からの前方距離40・50・60・70・80cm・壁無しの6パターンとした。動作時は体幹前面で両上肢を組み、動作開始時の足部の開きは肩幅程度とし、足部の前後位置・立ち上がり速度は任意とした。同時に、心理的影響を評価するため、圧迫感・立ち上がりにくさに対するアンケートを各5段階評価で行った。統計学的分析は、6条件における離殿時と、頭部と前方壁の距離が最小となった時(以下:頭部‐壁距離最小時)の各関節角度を算出した。各条件における関節角度の比較には多重比較検定(Shaffer法)を使用した。心理的影響における評価の比較には多重比較検定(Holm法により有意水準を調整)を使用した。なお有意水準は全て5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には事前に研究の趣旨と内容について十分説明し、同意を得た。【結果】関節角度では、離殿時において、膝関節は40cmと70cm間にて40cmの方が屈曲角度が有意に大きかった。足関節は、40cmと70cm・80cm間で40cmの方が背屈角度が有意に大きかった。それ以外は有意差を認めなかった。頭部‐壁距離最小時においては、全条件において有意差を認めなかった。p主観的評価では、圧迫感・立ち上がりにくさ共に60cmと70cm間、70cmと80cm間以外で有意差を認め、距離が狭くなるほど圧迫感や立ち上がりにくさの訴えが増加する傾向となった。【考察】離殿時の角度変化より、前方空間が十分にない条件では膝関節屈曲・足関節背屈角度が増加する傾向があり、膝関節・足関節を優位に使用して前方重心移動を行う動作パターンと考えられた。頚部・体幹・股関節では統計的に有意差を認めなかったが、これは前方壁との距離を視覚的に認識するために壁を注視する必要が生じ、関節を一定の角度で固定する必要があったためと推測する。頭部‐壁距離最小時の角度変化において各条件間の有意差が認められなかったことから、離殿後の動作パターンは概ね一致していると推測する。運動学的評価では60cm~70cm間、主観的評価では50cm~60cm間での変化が大きく観測され、特に60cm前後が動作に影響を与えるポイントになると推測された。【理学療法学研究としての意義】住宅改修においては、対象者個人の動作を確認し必要に応じてのアプローチが求められるが、理学療法士が関わる際の動作観察や環境設定のポイントを提示できたものと思われる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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