理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-02
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一般口述発表
糖尿病教育入院から1カ月後の身体活動量は6カ月後の身体活動量を決定する
池永 千寿子黒山 荘太小柳 靖裕野原 栄野村 卓生
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抄録
【はじめに、目的】運動療法は,2型糖尿病の基本治療の一つであるが,国際的に見ても自己管理行動の実行度が40~60%と基本治療の中で最も実行度が低い.本研究の目的は,2型糖尿病患者への療養指導において,より効果的な理学療法士の関わりを検討するため,糖尿病教育入院時,退院後1カ月,3カ月,6カ月時に「運動に生活活動を含めた身体活動量」を主の評価項目として諸種のデータを収集し分析することである.【方法】対象は2010年4月から2012年4月に当院へ糖尿病教育入院(2週間プログラム)され,理学療法士が運動療法教育を担当した257名とした.当院での糖尿病教育入院における運動療法教育は理学療法士が集団指導および2回以上の個別指導を行っている.また,入院から1カ月,3カ月,6カ月後の外来受診時に,理学療法士が約15分間の個別指導を行っている.対象のうち,理学療法士が退院6カ月後まで追跡でき,かつ追跡期間中に重篤な合併症の発症などで運動療法の適応外となった患者を除く2型糖尿病患者162名を解析対象とした.解析対象の臨床特性は,女性82名,60.7±10.72歳,BMI 25.8±4.32kg/m2,糖尿病推定罹患期間69.7±86.52カ月,HbA1c[NGSP] 9.7±2.31%であった.評価項目:主要評価項目である身体活動量の評価は,国際標準化身体活動質問票(IPAQ short version)を用い,身体活動量/週(Mets/h)を求めた.国際標準化身体活動質問票は,日常生活の中における身体活動について,平均的な1週間を考えた場合,1日に費やした運動やレジャーなどを含むすべての身体的な活動の時間を調査して算出した身体活動量である.他,糖尿病コントロール指標や合併症の有無・生活環境・運動への興味・運動日記の使用などのデータを収集した.統計分析:3カ月後(Model 1),6カ月後(Model 2と3)の身体活動量へ影響する因子を検討するために,それぞれを目的変数としたstepwise重回帰分析を行うこととした.説明変数は,Model 1と2には1カ月後の身体活動量,Model 3には3カ月後の身体活動量を使用することとした.3Model共通の説明変数は,多重共線性に配慮して各説明変数同士の相関検定を行い説明変数を限定した.統計ソフトはIBM SPSS ver. 18.0を用い,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】当院リハビリテーション部および糖尿病内科にて研究プロトコルの承認を受け,対象者に説明を行い同意を得た.【結果】Model 1:1ヶ月後の身体活動量(β=0.84,t=19.59)が有意な説明変数として選択された.Model 2:1カ月後の身体活動量(β=0.74,t=14.02)が有意な説明変数として選択された.Model 3:3カ月後の身体活動量(β=0.83,t=22.25),運動日記(β=0.089,t=2.35),配偶者の有無(β=0.085,t=2.35),運動が好き(β=0.082,t=2.18)が有意な説明変数として選択された.【考察】3カ月後の身体活動量を説明するのに1カ月後の身体活動量が有意な説明変数であり,6カ月後の身体活動量を説明するのにも3カ月後および1カ月後の身体活動量が有意な説明変数であった.これらの結果は,退院後すぐに運動療法の自己管理行動が発現しなければ,長期的にみても運動療法が実践される可能性は低いことを裏付ける結果と思われた.【理学療法学研究としての意義】糖尿病教育入院中はウォーキングなどの運動療法がほとんどの患者で実践されやすいが,患者が退院後も自宅で運動療法を継続する(運動療法の自己管理)ことは,基本治療の中で最も難しい.本研究成果は,糖尿病療養指導における理学療法士の効果的な関わりを再考する上で,退院から1カ月後までに運動療法の自己管理行動が発現するかに留意することが,運動療法継続を考えるうえで重要であることを示唆するものである.
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© 2013 日本理学療法士協会
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