理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-02
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一般口述発表
血液透析患者が1日5000歩の身体活動量を確保するうえで必要な身体特性とは
松沢 良太松永 篤彦石井 玲阿部 義史箕輪 俊也米木 慶原田 愛永高木 裕吉田 煦高平 尚伸
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キーワード: 身体活動, 透析, 身体機能
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抄録
【はじめに、目的】血液透析(HD)患者の身体活動量は、地域在住者の65%と著しく低下している(Johansen et al. 2000)。身体活動量の低下は、HD患者の死亡リスクを増大させる強力な要因であり(Matsuzawa et al. 2012)、身体活動量を高く維持させることは疾患管理上、重要である。Tudor-Locke et al.は、健常成人の最低限確保するべき1日の身体活動量は5000歩であると報告した(Tudor-Locke et al. 2009)。しかし、血液透析患者が1日5000歩の身体活動量を確保することができるか否かに、どのような身体特性が関与するかは明らかでない。そこで本研究は、HD患者の1日の身体活動量が5000歩に到達しているか否かに影響する要因について検討した。【方法】対象は、2011年3月から2012年9月の期間にさがみ循環器クリニックへの通院が自立していた外来HD患者124例(68 ± 9歳、女性64例、HD期間107 ± 106ヵ月)とし、調査前3ヵ月以内に合併症の増悪を認めた者、認知症を有する者、片麻痺を呈する者(ブルンストロームステージI~Ⅴ)、下肢切断者は除外した。研究開始時に年齢、性別、body mass index、HD期間、HD導入の原疾患、合併症(虚血性心疾患、運動器疾患、糖尿病、脳血管疾患)の有無、喫煙歴(ブリンクマン指数)、過去1年間の転倒の有無、血清アルブミン値、血清ヘモグロビン値、移動能力(timed up & go test)および身体活動量(ライフコーダ、SUZUKEN)を調査した。連続7日間の平均歩数に応じて、対象者を5000歩未満と5000歩以上の2群に分類した。2群間の調査項目の比較にはt検定とχ2検定を用いた。ロジスティック回帰分析を用いて、身体活動量の予測モデルを作成した。なお、説明変数のうち連続変数の要因については、要因ごとにReceiver Operating Characteristic curve(ROC曲線)を用いて身体活動量の2群を判別するカットオフ値を求めて、2値(0、1のダミー変数)に変換してから解析した。さらに、身体活動量5000歩以上か未満かについて、作成された予測モデルの的中率を算出した。解析にはSPSS11.0J for Windowsを使用し、危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。【結果】対象者のうち101例(81.5%)は5000歩未満群、23例(18.5%)は5000歩以上群に分類された。5000歩以上群のtimed up & go testの値は、5000歩未満群と比べて有意に低値を示し、脳血管疾患を有する者の割合は有意に小さかった。その他の調査項目には、2群間で有意な差異を認めなかった。ROC曲線とロジスティック回帰分析の結果から、身体活動量5000歩未満か否かを判別するためには、timed up & go testが6.89秒以上であることと脳血管疾患を合併していることが独立した予測因子として抽出された。なお、この2つの要因を有する患者のうち全症例が5000歩未満群に含まれていた。【考察】HD患者が1日5000歩以上の身体活動量を確保するためには、少なくともtimed up & go testの値が6.89秒未満であり、脳血管疾患の合併が無いことが必要である。我々は、説明変数を2値に変換してから身体活動量の予測モデルを作成した。そのため、この予測モデルは臨床上簡便に用いることができる。先行研究において、HD患者の移動能力は同年代の健常者に比べて低下しており、この移動能力の低下は身体活動量の低下と関連があるといわれている(Chen et al. 2010)。本研究の結果から、timed up & go testのカットオフ値6.89秒が算出されたが、この値はHD患者に運動療法を実施する際の目標値として用いることができる。本邦の健常高齢者のtimed up & go testの平均値は6.60秒と報告されており(Kamide et al. 2011)、本研究のカットオフ値と非常に近い値であった。一方、本研究では明らかな運動麻痺を有する者は対象から除外したものの、脳血管疾患の合併が身体活動量の低下に関与していた。先行研究によれば、歩行動作の自立した地域在住の脳血管疾患患者のうち85%が身体活動量の推奨値に到達していないことが報告された(Rand et al. 2009)。脳血管疾患の合併は運動麻痺を呈する他に、立位バランス機能の低下や疲労感の増大に影響することが報告されている(Patterson et al. 2007) (Ingles et al. 1999)。そのため、本研究において、脳血管疾患の合併が身体活動量を制限したものと考えられる。以上のことから、HD患者の身体活動量を向上させるうえで、timed up & go testの値と脳血管疾患の合併に着目することが重要であり、特に移動能力の低下を認める患者には、運動療法を積極的に実施する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】HD患者が身体活動量の推奨値を確保するために必要な身体特性を把握できたことは、理学療法士がHD患者の身体活動量を増加させる効果的な介入を実践する際の一指針となり得る。
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© 2013 日本理学療法士協会
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