抄録
【はじめに】随意運動におけるタイミングと力は動作協応の主要なパラメータである(乾, 2007)。数多くの先行研究により力とタイミングの制御特性は報告されているが、この両者の関係性についての結論は必ずしも一致していない。このような力とタイミングの制御特性を検討する際には、設定するタッピング速度や発揮筋力の相違により結果が左右されるため注意が必要である。加えて、タッピング課題では加齢による影響も報告されている。また、これらの報告の多くは手関節や手指のタッピング課題を用いた報告が多く、上肢に比べ周期運動を遂行する頻度の高い下肢では上肢とは異なる力とタイミングの制御特性を備えている可能性もある。そこで今回は下肢タッピング課題により、力とタイミングの制御特性を見出すため異なるテンポ速度を用い加齢の影響について検討したので報告する。【方法】対象は健常若年者8 名(若年群:平均22.5 ± 4.7 歳、男性5 名、女性3 名)、自立生活を営んでいる地域在住高齢者7 名(高齢群:平均72.9 ± 6.9 歳、全員女性)とし、Chapmanの利き足テストにより全対象者で利き足(測定肢)は右であった。対象者は、股・膝関節90°屈曲位、足関節底屈・背屈中間位の端坐位で、利き足の前足部直下のプレートに設置された筋力測定装置(フロンティアメディック社製)上に右足部を置いた。対象者は実験に先立ち、同肢位にて足関節底屈の等尺性最大随意収縮力(MVC)を測定した。運動課題は、異なる3 種の音刺激周期(ISI)下で、MVCより求めた20%MVCを目標筋出力とした周期的な等尺性足底屈力発揮(以下、足タッピング)とした。対象者は、電子メトロノーム(SEIKO社製)により与えられる3 種のISI (500ms, 1000ms, 2000ms)に同期するとともに、目前に設置されたPCモニターに表示される20%MVCの目標筋出力ラインと自身の筋出力値を視覚的に確認しながら足タッピングを実施した。各ISIにつき50 回の足タッピングを3 セット行い、3 セット目の中間30 回(11 〜40 回目)を解析対象とした。なお、筋力測定装置により得られたデータはAD変換され、サンプリング周波数1kHzでPCに取り込んだ。データ解析には、力量解析ソフト(エミールソフト開発社製)を用いて各足タッピングの筋出力ピーク値を検出し、3 種のISIと2 つの連続するピーク値より求めた足タッピング間隔との誤差(タッピング間隔誤差)の恒常・絶対平均、またタッピング間隔の変動係数(CV)を求めた。また、20%MVCと筋出力ピーク値との誤差である筋出力誤差の恒常・絶対平均、筋出力ピーク値のCVを求めた。統計学的分析として、加齢や異なるISIが足タッピング間隔や筋出力の精度に及ぼす影響を検討するため、2(若年群、高齢群)× 3(500ms, 1000ms, 2000ms)の二元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較検定を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。【説明と同意】すべての対象者に、実験に先立ち本研究の目的と方法を紙面にて説明し、同意を得た上で測定を行った。また、実験プロトコルは学内倫理委員会の承認を得た。【結果】タッピング間隔誤差の絶対平均について、若年群より高齢群の誤差が大きく(p<0.01)、またISI別では500msおよび1000msより2000msの誤差が大きい結果であった(順にp<0.01、p<0.05)。タッピング間隔のCVにおいても、若年群より高齢群の変動が大きかった(p<0.01)。一方、筋出力誤差の絶対平均において高齢群よりも若年群の誤差が大きかった(p<0.01)。また、筋出力ピーク値のCVにおいては、若年群より高齢群の変動が大きかった(p<0.01)。なお、いずれも交互作用は認めなかった。【考察】タッピング間隔からみたタイミング制御の側面は、明らかに加齢に伴い困難になることが示唆された。乾ら(2009)は手指タッピング課題を用いて500ms以下のISIで同様の傾向を報告しているが、足タッピングにおいて1000 および2000ms でも同様に加齢の影響が示されたことは重要な結果である。また、Miyakeら(2004)はISIが1800msを超えると時間的間隔を保持することが難しくなることを報告しているが、今回の結果ではタッピング間隔のCVがISI2000msを含むすべてのISI間で相違を認めなかったことも興味深い。一方、力の制御の側面では、タイミング制御と同様に筋出力ピーク値の変動は高齢群で大きかったものの、筋出力誤差の絶対平均では若年群の方が大きいという意外な結果を得た。仮説の域を脱しないが、目標筋出力ラインに自らの筋出力を合わそうとする筋出力調節の加減の程度が若年群の方が大きかったためと考えらえる。いずれにしても、加齢に伴い力制御の戦略が異なることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】異なる音刺激周期で加齢に伴う周期運動の特性を知ることは、歩行をはじめとした周期運動の機能向上を目的とした介入条件設定の根拠になる。