抄録
【はじめに】姿勢制御を評価する方法として従来から重心動揺計を用いた測定があり,そこから得られる単位面積軌跡長(以下L/A)は姿勢制御の微細さを示す指標とされている.しかし,L/Aのみでは,姿勢制御における各身体部位の動きを読み取ることはできない.そこで,今回の研究では,各身体部位の動きを捉えるために加速度計を用いた測定を行い,同時に測定したL/A の大きさによって対象を任意に分類し,各身体部位の動きとL/Aとの関係性を分析した.これらの結果をクラインフォーゲルバッハの運動学で定義されている,微細な筋活動で姿勢制御するCounter activity(以下,CA)と,重りの釣り合いで姿勢制御するCounter weight(以下,CW)の活性化という2 つの姿勢制御戦略の概念に基づいて考察したので報告する.【方法】対象は,健常男性40 名(平均年齢22.4 ± 2.3 歳).加速度計(ATR-Promotions社製WAA-006,sampling周波数100Hz)を頭部(額),胸部(胸骨柄),仙骨部(左右上後腸骨棘間の中央)の3 ヵ所に取り付け,重心動揺計(Medicapteurs社製WinPod,sampling周波数10Hz)の上で,3m前方のホワイトボードを眺めるように静止立位をとらせ,各部位の加速度と足圧中心を30 秒間,2 回測定した.解析対象は,全ての部位の加速度データの同期に成功した45 試行とした.L/Aの結果により,a;0<L/A<1.5(/mm), b;1.5 ≦L/A<2.0, c;2.0 ≦L/A<2.5, d;2.5 ≦L/Aの4 群に分類した.加速度データは積分処理し位置変化情報に変換,移動平均法にてノイズを除去した.各部位の前後方向の動揺幅(mm)と動揺距離(mm)を算出し,Kruskal Wallis H-testを用いて各部位の群間及び群内比較を行い,有意差が認められた場合,Mann-Whitney U-test with Bonferroni correctionを行った(有意水準p<0.05).【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学疫学・臨床研究等倫理審査委員会の承認の下,事前に紙面と口頭にて十分な説明を行い,同意を得て実施した.【結果】L/Aの分類結果は,a群;12 例,b群;10 例,c群;14 例,d群;9 例であった.各部位の前後方向の動揺幅,動揺距離の平均値と標準偏差を以下に示す.動揺幅は,頭部a;4.1 ± 2.5, b;4.7 ± 3.3, c;2.6 ± 1.2, d;2.5 ± 1.0,胸部a;2.1 ± 0.8, b;2.3 ± 1.5, c;1.7 ± 0.6, d;1.5 ± 0.7,仙骨部a;2.0 ± 1.1, b;1.5 ± 0.3, c;1.1 ± 0.6, d;1.0 ± 0.4 で,いずれにおいても群間で有意差は認めなかった.群内比較では,頭部と仙骨部の間でb群(p=0.0143),c群(p=0.0099),d群(p=0.0097)に有意差を認めた.動揺距離は,頭部a;223.3 ± 81.7, b;170.7 ± 61.3, c;190.8 ± 52.3, d;279.7 ± 92.8,胸部a;139.9 ± 66.5, b;101.8 ± 65.9, c;112.1 ± 87.0, d;147.5 ± 111.0,仙骨部a;211.5 ± 59.2, b;103.5 ± 64.2, c;154.5 ± 65.5, d;215.8 ± 98.1 で,a群とb群の間で有意差を認めた(p=0.0427).群内比較では有意差を認めなかった.【考察】動揺幅の群内比較では,b,c,d群で頭部と仙骨部の間に有意差を認めた.有意差は認めなかったが,各部位の動揺幅はb,c,d 群の順に小さかった.動揺距離は,a群とb群に有意差を認めたが,その他の郡内,群間には有意差は認めなかった.よって,L/Aが大きいほど,頭部,胸部,仙骨部の動揺幅は減少し,仙骨部よりも頭部の動揺幅が大きくなる傾向がみられた.動揺距離は有意差を認めなかったが,d群が他群と比較して頭部,胸部,仙骨部の全てにおいて最も長い結果となった.このことにより,L/Aが大きいほど,動揺距離が長くなる可能性が残った.以上により,クラインフォーゲルバッハの運動学の概念に基づいて考察すると,L/Aが大きいほど,身体各部位の動揺幅は小さくなり,動揺距離が大きくなるという結果は,身体各部位が連動しながら微細かつ複雑な動きによって姿勢制御していることを示唆しているのではないか考えられる.つまり,CAの戦略が優位になっていることを示す.この逆の結果は,重りの釣り合いで姿勢制御するCWを活性化する戦略を判定できるのではないかと考えた.今回は,姿勢制御戦略の評価を試み,L/Aの分類によって,加速度計とのデータを検討した結果,CA とCWを活性化する戦略を定量的に評価できる可能性がみられた.今後は,身長,体重などを考慮するデータ補正,さらに,精密な評価を同時に行い,L/Aの分類によって,姿勢戦略の判別が可能となるか検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】姿勢制御にアプローチする理学療法の治療効果を示すための評価法の研究は,理学療法学研究として大変意義のあることである.研究で詳細な検討を行い,臨床では,簡便かつ安価にできる評価法を確立していきたい.