理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-03
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一般口述発表
視運動刺激が姿勢保持に及ぼす影響
斎藤 剛史佐藤 満関屋 昇
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抄録
【目的】視運動刺激(以下,OKS)は,姿勢保持に影響を及ぼすことが明らかになっている.羽柴ら(1999)は静止立位の対象者に下向き垂直性OKSを負荷すると,前方変位の姿勢動揺が誘発されること,および立位姿勢の重心点はOKSの移動速度増加にともなって前方に移動することを明らかにした.立位姿勢の動揺は,頭部と足圧中心の移動を調べたものばかりで,体節ごとに何が起こっているかを明らかにした報告は散見する程度であった.本研究は,OKSによる立位姿勢の動揺を,体節ごとに解析することで,姿勢保持の戦略を明らかにすることを目的とした.【方法】神経学的疾患,めまい,及び平衡障害の既往のない健常成人(6 名:23 〜27 歳)を対象とした.超短焦点投写モデルの液晶プロジェクター(CP-A300NJ、日立)を用いて,平面スクリーンTPW3330GH(シアターハウス、3330mm× 1880 mm)上にOKS刺激パターンを投影した.OKS刺激パターン:黒地の背景に,白色のランダムドットパターンを、画像提示用ソフトKeynote5.1(Apple)にて4 速度のOKS刺激パターン(10、20、30、40deg/sec)を提示した.頭部等の身体標点や関節角度及び,身体重心(以下,COG)の計測にはモーションキャプチャーシステムVICON-MX(Oxford Metrics社:サンプリング周波数50Hz)と,床反力計OR6-7(AMTI社製2 枚:サンプリング周波数1000Hz)を用い,計測した.マーカの貼付け位置は,頭部,頭頂部,第7 頸椎棘突起,両肩峰,右肩甲骨,胸骨,鎖骨,両上腕骨外側上顆,両橈尺骨茎状突起,両手指第3MP関節,両上前後腸骨棘,両大腿部,両大腿骨外側上顆,両腓骨,両腓骨外果,両踵骨,足指第2MP関節の計29 点とした.計測項目は頭頂部,骨盤(左右のPSISの中点),COG,股関節屈曲・伸展角度,足関節底・背屈角度と,10 〜40deg/sec におけるOKS中の時定数の計6 項目とした.計測肢位はロンベルグ肢位での静止立位とし,30 秒間のOKS提示中と刺激前後5 秒の静止立位保持を行った.最大前方移動量は,OKS刺激開始前5 秒間の各体節に関する動揺の平均値を基準として,刺激開始後最後5 秒間の前後方向に対する変位量の平均値との差とした.時定数の算出にはデジタル化した前後方向への計測変位のデータを縦軸が前方移動量,横軸が時間のグラフに表した.その後,下記の一次遅れ系の式で得られる曲線を計測データと近似させて算出した.y= a・(1 - e(-t /T))- b(yは計測点の変位,tは刺激提示開始後の時間,Tは時定数,a,bは係数) データへの曲線近似と時定数の算出にはDeltaGraph 6J(日本ポラデジタル社)を使用した.刺激速度による影響を、前方移動量と時定数について比較する多重検定にはSteel-Dwass法を用い,有意水準は5%とした.統計処理にはJMP9.0(SAS Institute社)を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】実験手順と方法は,所属施設における倫理委員会の許可を得た.被験者には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭及び文書にて説明した.同意が得られた者のみを対象に計測を行った.【結果】頭部,COGの前方移動は下向きのOKSを負荷したことによって全試行でみられた.また頭部の前方移動量は刺激速度10deg /secで11.3mm,20deg/secで21.8mm,30deg/secで31.5mm,40deg/secで29.0mmであった.この結果からOKSの速度は30deg/secまで速くなるに従い増加する傾向を認めた.OKSによる身体の前後方向への傾斜反応を示す時定数において,頭部が20.48 ± 9.13sec,COGで20.16 ± 8.31sec,骨盤で18.44 ± 9.19sec,股関節屈曲で20.57 ± 8.26secとほぼ同程度であった.一方,足関節背屈は12.02 ± 6.92secであり,他の体節よりも有意に速い反応を示した.【考察】静止立位姿勢は,物理的な外乱ではない下向きのOKSを負荷することで頭部,COGを前方に移動させた後,後方に戻す反応を認めた.この反応は,立位姿勢を保持しようとした為と考えられる.またOKS開始直後,立位姿勢は徐々に姿勢の変化が生じた.この反応の時定数において頭部,COG,骨盤と股関節がほぼ同程度であったのに対し,足関節の背屈運動のみ他の体節に比べて有意に速い反応を示すことがわかった.本研究における下向きのOKSは,静止立位姿勢の保持において足関節での姿勢制御による役割を果たしていることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】臨床場面において,我々は何らかの理由によって随意的な姿勢調整が困難な症例を多く見受ける.その様な方々に対して,OKSを負荷することは足関節主導の姿勢調整反応を示すことが示唆された.この結果からOKSは,物理的外乱を加えることなく,静的立位姿勢維持を目的としたトレーニングに利用することが可能と考えられる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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