理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-03
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一般口述発表
脳卒中片麻痺者における足底圧覚への能動的注意が歩行立脚期の同時収縮に及ぼす影響
河石 優松本 直樹水野 修平安田 夏盛脇 聡子沖山 努
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キーワード: 脳卒中, 歩行, 同時収縮
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抄録

【はじめに、目的】動作時において、主動作筋と拮抗筋との過剰な同時収縮は、円滑な関節運動を阻害する。脳卒中片麻痺者では、立位姿勢制御時や歩行運動時に、相反抑制機能の低下や伸張反射の亢進により、下肢において過剰な同時収縮が観察されることが知られており、立位姿勢や歩行の安定性を低下させる一要因となっている。近年、足底からの皮膚感覚入力により、ヒラメ筋の伸張反射が抑制されることが報告されている(M Knikou, 2007)。一方、注意が体性感覚情報処理に及ぼす影響については、知覚対象に対する能動的注意が体性感覚情報処理を促進させることが知られている。これらより、足底感覚への能動的注意は、歩行時立脚期において足底からの感覚情報処理を促進させ、結果、過剰な同時収縮を軽減させる可能性があると考えられる。そこで本研究では、硬さの異なるスポンジを使用した足底圧覚弁別課題を用い、その前後での歩行時筋活動を測定することで、脳卒中片麻痺者における足底圧覚への能動的注意が、歩行立脚期の同時収縮に及ぼす影響を検討した。【方法】対象は回復期病棟に入院中であり、10m以上の歩行が装具を使用せず介助なしで可能である脳卒中片麻痺患者7 名(平均年齢64.8 ± 8.8 歳、男性5 名、女性3 名、平均罹患期97.2 ± 27.2 日、下肢Br-stage _3‐2 名 _4‐4 名 _5‐1 名)とした。足底圧覚弁別課題は硬さの異なる4 種のスポンジを用いて行い、座位、閉眼状態にて麻痺側足底をスポンジ上に乗せ、硬さの弁別を求めるものとした。弁別課題は連続して20 試行し、試行中、結果の知識は与えなかった。歩行は弁別課題前、課題直後、課題15 分後の3 回で行い、その際の麻痺側下肢について筋電図を記録した。測定には表面筋電計(Biometrics社製、PS850)を用いた。測定筋は前脛骨筋、腓腹筋、大腿直筋、大腿二頭筋とした。また、歩行中の立脚期を同定する為、足底の踵部と拇指球部に感圧センサー(Biometrics社、S100)を貼付した。得られた筋電図は、15 秒間の安静立位時における平均筋活動量で正規化した。その後、歩行立脚期における筋活動量として立脚期中の平均筋活動量を各筋について算出した。また、立脚期における同時収縮の指標としてco-contraction index (CI)を足関節、膝関節について求めた。各算出項目は、歩行中における歩行開始から10 歩行周期までの値の平均値とした。統計解析は多重比較検定(Bonferroni)を用い、各項目について課題前、課題直後、課題15 分後で比較した。また、弁別課題中に起きた知覚学習の程度を検討するため、20 試行の弁別課題内での最初の5 試行と最後の5 試行について、その正答数をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設の倫理委員会にて承認された。また、対象者に対し、本研究の内容について口頭と書面にて詳細な説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】筋活動量について、腓腹筋において、課題前に比べ課題直後で有意に減少した(p<0.005)。CIについて、足関節において、課題前に比べ課題直後で、有意に減少した(p<0.001)。弁別課題の正答数について、20 試行内での最初の5 試行と最後の5 試行で有意な差は認められなかった。【考察】弁別課題の正答数における比較結果について、最初の5 試行と最後の5 試行で有意な差は見られなかった。これより、本研究の結果示された弁別課題後の筋活動の変化が、知覚学習による足底感覚機能の向上によるものではなく、足底感覚に対して能動的注意を行なった結果であると考えられる。筋活動量、CIの比較結果について、課題前に対し課題直後で腓腹筋の筋活動量が減少し、足関節のCIが低下していた。これは、足底感覚に対する能動的注意によって、歩行立脚期での腓腹筋の伸張反射が抑制された為、足関節の過剰な同時収縮が軽減したものと考えられる。また、これらの筋活動様式の変化が、弁別課題15 分後には見られなかったことから、足底感覚に対する能動的注意による同時収縮の抑制は、能動的注意の直後のみに効果を及ぼすことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、脳卒中片麻痺者に対する歩行理学療法において、歩行前に足底感覚への能動的注意を促すことにより、歩行時の麻痺側立脚期に見られる足関節の過剰な同時収縮を軽減させ、より円滑な歩行運動の再学習を促進させることが考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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