理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-04
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セレクション口述発表
ラット後肢の他動運動時に発生する深部感覚情報の解析
出口 太一緒方 茂山本 英夫松原 誠仁吉村 恵脇田 真仁飯山 準一
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キーワード: 関節運動, 感覚入力, in vivo
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抄録

【はじめに、目的】本研究の目的はin vivoで他動運動時における深部感覚の受容器である筋紡錘からの上行性活動電位を脊髄神経節で記録し,1 次終末および2 次終末からの活動電位を分類することである。invitroで,筋紡錘からの上行性活動電位を1 次終末および2 次終末の分類をした報告はある。しかし筋紡錘は、筋伸張の受容器であるが、in vivoで,他動運動時の筋紡錘からの上行性活動電位を1 次終末および2 次終末に分類した報告はない。生体内において運動時の筋紡錘からの上行性活動電位による中枢神経系への影響をin vitroの実験から得られた結果を単純に演繹して説明することはできない。例えば,in vitroである除脳における実験では筋緊張が亢進した状態となり,中枢神経からのガンマ遠心性の影響を考慮しているとは考えがたい。【方法】ウレタン麻酔をした6 〜7 週齢のウィスター系ラット(雄)を用い,胸〜仙部を6 〜7 髄節にわたって脊椎を露出し,椎弓切除を行い第3 〜5 腰髄節レベルの脊髄神経節から細胞内記録を行なった。さらにin vivoでラット後肢における他動運動時の筋紡錘からの求心性の応答を、2 つのハイスピードカメラと同期することで関節運動と感覚入力の相関関係を検討した。関節運動の関節角度および関節角速度は,得られた三次元座標値を用いて算出した。【倫理的配慮、説明と同意】6 〜7 週齢のウィスター系ラット(雄)を用いた。全ての実験は熊本保健科学大学の動物実験委員会の承諾を得て実施し、使用したラットは合計204 匹であった。また,実験に必要なラットの数を出来るだけ少なくするよう努力し,刺激によって体動が見られた時にはウレタンを追加して出来る限り痛み刺激の減少を図った。【結果】筋紡錘からの発火には,関節運動の角速度に依存して発火頻度が増加するものと,増加しないものの2 群に分類された。関節角速度に依存して発火頻度が増加する筋紡錘の発火パターンには,動的反応および3 峰性が確認された。また角速度に依存して発火頻度が増加しない筋紡錘の発火パターンには関節角度に依存して発火頻度の増加が確認された。【考察】1 次終末からの発火パターンの特徴として,動的反応および3 峰性がある。また2 次終末からの発火パターンの特徴として,筋の長さに依存して発火頻度の増加がある。以上のことから,関節運動の角速度に依存して発火頻度が増加するものは1 次終末,増加しないものは2 次終末であると考えられた。ラット後肢の他動運動時の関節角度,角速度および筋紡錘からの活動電位の発火パターンに着目することで,深部感覚情報である筋紡錘の1 次終末および2 次終末を活動電位として分類することができる。【理学療法学研究としての意義】本研究で分類した1 次終末からの発火は伸張反射の誘発に関与している。つまり関節運動時の1 次終末の発火頻度を伸張反射誘発の指標にすることができる。この指標から感覚入力を考慮した運動療法の示唆を与えることができると考える。例として,運動療法である関節可動域訓練において,筋緊張の亢進により伸張反射が誘発しやすいために関節可動域制限をきたしている場合に,伸張反射を誘発しないような関節角度および関節角速度を提示することが期待される。また,伸張反射を利用して神経筋促通を行う川平法14)に対して,伸張反射を誘発しやすい関節角度および関節角速度を提示することも期待できる。他動運動時に筋紡錘からの活動電位の発火頻度を確認できる本研究のモデルと,冷刺激および温熱刺激の介入を行った後に他動運動時の筋紡錘からの活動電位の発火頻度を比較することで,物理刺激が伸張反射を促進もしくは抑制する知見が得られ,新たな物理療法の活用方法の示唆が与えられる。脊髄損傷および脳卒中モデルなどの病態モデルを作成し正常モデルと比較することで、疾患に応じた運動による感覚入力への示唆が可能となる。記録方法を細胞内記録法からin vivoパッチクランプ法へ変更し,記録部位を脊髄神経節から脊髄前角および脳に変更することで、痙縮のメカニズム解明への貢献が期待される.病態モデル,脊髄および脳などの記録部位のデータを蓄積することで運動から中枢神経への病態を予測するシミュレーションへの応用も期待される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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