理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-08
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一般口述発表
肩関節拘縮に対する鏡視下授動術後の自動運動に影響する因子の検討
押川 達郎天野 徹哉櫻井 真柴田 陽三
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抄録
【はじめに、目的】 肩関節拘縮に対する保存的治療は治療期間が長期化し、遷延する症例が少なくない。近年、一定期間の保存的治療にて効果が得られない肩関節拘縮症例に対して、関節鏡視下授動術(以下、鏡視下授動術)が行われている。鏡視下授動術は、外科的な関節包の切離処置により肩関節の可動性を拡大し、術後のリハビリテーションにより肩関節の機能回復を得るものであり、理学療法が機能回復に寄与するところは大きい。また、術中麻酔下で可動域拡大が得られても、時に術後覚醒下では疼痛、筋の伸張性の低下等により可動域拡大に難渋し、理学療法場面で苦慮することは多い。しかし、鏡視下授動術後の理学療法に対する報告は少なく、術後の自動運動に影響を及ぼす因子については明らかではない。本研究の目的は、肩関節拘縮に対する鏡視下授動術後の肩関節自動運動に影響する因子を検討することである。【方法】 2010年4月から2012年8月の期間に、当院整形外科で同一術者により肩関節拘縮に対して鏡視下授動術を施行された38例中、術後3ヶ月以上経過観察できた34例(男性20名、女性14名、平均年齢57.9±9.0歳)を対象とした。なお、腱板断裂を合併している者は対象から除外した。当院入院中は、全例同一理学療法士が担当し、同じリハビリテーションスケジュールで行われた。鏡視下授動術後の肩関節機能は3ヶ月で概ね安定するとされているため、術後3ヶ月の肩関節自動角度を調査した。術後3ヶ月時点で自動挙上角度120°以上、自動外旋角度30°以上を獲得できた者を良好群(26例)、獲得できなかった者を停滞群(8例)として2群に分け、従属変数とした。術後自動運動角度の予測因子として、1)年齢、2)疼痛発生から手術までの期間(以下、術前期間)、3)肩関節拘縮に関連があるとされている糖尿病、脊椎疾患の既往歴の有無(以下、既往歴)、術前の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績評価基準(JOAスコア)の4)疼痛(以下、JOA疼痛)、5)機能(以下、JOA機能)、6)可動域(以下、JOA可動域)、7)ADL(以下、JOAADL)の各項目、8)術前の自動挙上角度、9)術前の自動外旋角度、10)術後1週の他動挙上角度、11)術後1週の他動外旋角度の11項目を独立変数とした。統計解析は、変数増加法(尤度法)によるロジスティック回帰分析を行った。なお事前に単変量解析によって、有意水準が0.20を下回る変数のみをロジスティック回帰分析に投入して解析を行った。統計ソフトはSPSS Statistics 19を用い、有意水準は5%未満とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 今回使用したデータは通常の診療で行われている評価内容を用いた。また、対象者にはリハビリテーション介入時に本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得て実施した。【結果】  単変量解析によって抽出された変数は、既往歴、JOAADL、JOA可動域、術前の自動挙上角度、術前の自動外旋角度、術後1週の他動挙上角度、術後1週の他動外旋角度の7項目であった。ロジスティック回帰分析の結果、術後1週の他動外旋角度が有意であった(p=0.015、オッズ比1.12)。すなわち、鏡視下授動術後3ヶ月時点の自動運動に影響する因子は、術後1週の他動外旋角度であった。【考察】 本研究の結果より、鏡視下授動術後の自動運動に影響する因子は、術後1週の他動外旋角度であることが示唆された。先行研究では、肩関節拘縮の主病変は腱板疎部の拘縮と烏口上腕靱帯の拘縮とされ、組織学的にも腱板疎部の繊維化の所見を認めると報告されている。肩関節は、下垂位外旋で腱板疎部領域が伸張されるため、術後早期に外旋角度が良好であった症例は、拘縮の主病変とされる腱板疎部領域の可動性が術後早期に改善がされたと考えられる。そのため、術後の再拘縮を予防し自動運動の拡大が得られたと推察された。さらに、本研究では術前期間や既往歴の有無、術前自動運動角度などの術前因子と術後1週の他動挙上角度は術後3ヶ月の自動運動の予測因子として抽出されず、術後1週の他動外旋角度のみ予測因子として抽出されたことから、術後の理学療法として外旋角度を早期に獲得することの重要性が示唆された。今後は経過観察期間を延長し、肩甲骨の可動性、術後の疼痛等の因子も含めて検討する必要がある。【理学療法研究としての意義】 関節鏡視下での授動術は身体への侵襲も小さく、今後対象者は増加すると予測される。本研究の知見より、鏡視下授動術後の理学療法では外旋角度を早期に獲得することの重要性が示唆され、術後の理学療法治療計画の一助になると考える。また、鏡視下授動術後の自動運動に影響する因子を多変量解析により検討した報告は見当たらないため、本研究の臨床的意義は高いと考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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