抄録
【はじめに、目的】変形性膝関節症(膝OA)は膝関節機能の低下や疼痛の出現が特徴的な疾患であり、その結果として動作能力が障害されることが知られている。動作能力の障害は、日常生活活動(ADL)ひいては生活の質(QOL)に影響を与える。そのため、膝OA患者に対して、QOLの向上を視野に入れた理学療法を行う上で、QOLを反映する身体機能を知ることは有用であると考える。本研究の目的は、膝OAの疾患特異的QOL評価尺度として開発された日本版膝関節症機能評価尺度(JKOM)を用いて、膝OA患者のQOLに影響する身体機能について明らかにすることである。【方法】対象は膝OA と診断され,2010年6月から2010年11月に外来受診により保存療法を受けた女性30 名(平均年齢73.1±10.4 歳)とした。片側罹患例は13例、両側罹患例は17例であった。両側罹患例の障害側の定義は、Visual Analogue Scale(VAS)による疼痛が強い側とした。VASはmm単位で評価し、同値である場合は膝伸展筋力値が低い側とした。 QOLはJKOMを用いて評価した。JKOMは「膝の痛みとこわばり」、「日常生活の状態」、「ふだんの活動」、「健康状態について」を5段階で質問する25問の構成と膝の痛みをVASで質問する自記式回答質問表である。JKOMの算定方法は、各質問への回答が5段階スケールの選択肢から1肢を選択するため、各段階の配点を1~5点(症状が強いほど高得点)としている。各設問を算定し総合点数がJKOMスコアとなり、最も重症の場合で125点となる。なお、今回は両側膝関節の疼痛をVASで評価しているため、JKOMによる質問紙上のVASは除外した。 動作能力として歩行、立ち上がり、片脚立位、階段昇降、膝立ち、床へ身体をかがめる動作を評価した。歩行は10m歩行時間(最速)、立ち上がりは虚弱高齢者における5回立ち座りテスト、片脚立位は片脚立位保持時間(障害側、非障害側)を計測した。階段昇降は20cm台の昇降、膝立ちは支えなしでの膝立ち、床へ身体をかがめる動作は立位姿勢から前方の床に手掌をつけるよう指示し、動作の可否を評価した。関節機能として両側膝関節の疼痛(VAS)、可動域(屈曲、伸展)、筋力(屈曲、伸展)を計測した。筋力の測定は、徒手筋力測定器(日本メディックス製マイクロFET2)を用いて、座位での膝関節屈曲90°位における等尺性膝屈曲・伸展筋力を評価した。また、身体組成としてBody Mass Indexを計測した。なお、評価は全て検者1名により実施し、評価順序は循環法を用いて決定した。 統計解析は、QOLに影響する身体機能を明らかにするために、JKOMスコアを従属変数、身体機能(年齢、身体組成、関節機能、動作能力)を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を用いた。有意水準は5%とし、すべての解析にはSPSS12.0J(SPSS Japan)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って、対象には本研究の概要を十分に説明し、書面で同意を得た。【結果】JKOMスコアに影響する身体機能は10m歩行時間(最速)、疼痛(障害側)、膝伸展可動域(障害側)であり、それぞれの標準偏回帰係数は歩行0.513、疼痛0.499、膝伸展可動域-0.379であった。JKOMスコアの平均値は51.4±16.5点であった。なお、自由度調整済み決定係数は0.739であり、適合性は高いと判断した。【考察】本研究では保存療法を受けている膝OA患者を対象に、QOLに影響する身体機能について検討した。その結果、歩行能力が低く、障害側の疼痛と膝伸展制限が重度の者はQOLが低いことが示された。歩行能力と疼痛はADL能力と高い関連性を持つことが報告されており、ADL能力がQOLに反映していると考えられる。一方、膝伸展制限に関しては、膝OAでは種々の要因で膝伸展制限が生じ、前額面上のアライメントは内反肢位となり、膝内反モーメントを増大させる。これは膝内側への負荷を意味しており、歩行時のLateral thrustの出現や膝OAの進行、重症度に関わるとされており、膝伸展制限は歩容や膝OAの重症度を反映している可能性が考えられる。本研究の限界として、保存療法を受けている患者が対象であり、手術適応の患者に一般化できるか明らかではない。そのため、今後の課題として、手術療法が必要となる重症例についての検討も必要である。【理学療法学研究としての意義】保存療法を受けている膝OA患者のQOLに影響する身体機能が明らかとなった。このことは、膝OA患者に対して、QOL向上を目的とした理学療法介入を行う場合に、介入の優先順位に示唆を与える有用な情報である。