抄録
【はじめに、目的】 脳損傷後の運動機能の改善には、随意筋力の改善が欠かせない。実際に運動機能障害と筋力低下の密接な関係については多くの研究で一致しており、障害を構成する重要な因子であると考えられている(Bohannon et al. 2007.)。特に、発症早期における筋力低下と入院期間や退院時の移動能力の関連が示されており(Andrews et al, 2001.)、早期からの筋力の改善が、その後の運動機能の改善を左右するといえる。しかし、発症早期には自発的な筋収縮が困難な症例が数多く存在する。この場合、筋力増強や通常の歩行トレーニングが実施困難となる。 長下肢装具の使用はたとえ介助下であっても歩行再建に効果的だとされているが、現時点では明確な医学的根拠はない。本研究の目的は、長下肢装具を用いることにより、随意筋力よりも強い筋活動を発揮させることができるかどうかを明確にし、長下肢装具歩行における筋活動と筋力の回復の関係を明確にすることである。【方法】 対象は回復期病院入院中で長下肢装具を使用して歩行トレーニングを行った片麻痺患者12名とした(平均年齢66.0±8.7歳、男性7名、女性5名、下肢Brunnstrom Recovery Stage I 1名、II 7名、III2名、IV1名、V1名)。対象者に対して入院初期と入院中期の2回にわたり、Functional Ambulation Category(以下FAC)を評価し、下肢筋力、長下肢装具歩行中の歩行筋電図解析を行った。下肢筋力の測定にはアニマ社製徒手筋力計を用い、膝関節屈曲、伸展、足関節背屈、底屈筋力を測定した。長下肢装具歩行は10mの距離を1名の理学療法士の介助下で行った。筋電図測定はNolaxon社製筋電計DTS50を用い、十分な皮膚処理の後、大腿直筋、半腱様筋、前脛骨筋、外側腓腹筋、ひらめ筋に電極を貼付した。最大等尺性筋力発揮時と長下肢歩行中の筋電図波形を記録し、20Hz~250Hzのバンドパスフィルターで処理した後、50msec のRMS波形に変換した。最大等尺性筋力の筋電図波形は50msecのPeak値を求め、歩行筋電図は安定した5-10歩行周期の平均波形を算出し、歩行周期におけるPeak値を代表値として求めた。また、長下肢装具歩行時の筋活動を最大等尺性筋活動で除した値をGait/MVC比として算出した。 得られた値から、1)歩行筋活動Peakと最大等尺性収縮時の筋活動の比較、2)筋力とGait/MVC比との関係、3)Gait/MVC比と筋力の縦断変化の特徴について、Wilcoxonの順位和検定およびSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。本研究の有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本学倫理委員会の承認を得て、各対象者に測定方法および本研究の目的を説明した後、書面にて同意を得て行われた。【結果】 初回測定は発症から平均70.3±19.7日目に行い、二回目の測定は初回の43.7±13.5日目に行った。対象者の初回のFACはIが10名、IIが2名であったのが、二回目にはIが8名、IIが2名、IIIが2名となっていた。初回時の歩行筋活動Peakと最大等尺性収縮時の筋活動を比較したところ、外側腓腹筋、ひらめ筋において、歩行筋活動Peakの方が高い値を示した(p<0.01)が、その他の筋群には有意な差は認められなかった。初回の筋力とGait/MVC比との相関は膝伸展筋力と大腿直筋との間で認められ(r=-0.65, p<0.05)、膝伸展筋力が弱い者ほど長下肢歩行における歩行筋活動が最大随意筋活動より高いことを示していた。また、この時期の筋力の回復は膝伸展筋力で有意に認められ(p<0.05)、長下肢装具から短下肢装具に移行できた群は、膝伸展筋力の増加が大きく(p<0.05)、Gait/MVC比が低下していた(p<0.05)。【考察】自立した歩行が困難な脳卒中後片麻痺者において、長下肢装具の使用は下肢の運動量を増加する重要な手段である。本研究の結果、KAFOの使用により、下腿三頭筋では随意的な筋力発揮よりも強い筋活動が認められること、大腿直筋では膝伸展筋力の弱いものほど歩行時の筋活動が随意収縮より強くなることが示唆された。また、長下肢装具使用者の筋力変化は膝伸展筋力に認められ、KAFOからAFOに移行することができるものほど膝筋力の増加に伴って、歩行筋活動の等尺性筋力に対する比が低下することが示された。【理学療法学研究としての意義】脳卒中後片麻痺患者において、KAFOの使用は大腿直筋や下腿三頭筋で随意筋力より高い筋活動を促すことができる。随意的な筋力発揮が行えなくても、長下肢装具の使用により効果的な筋活動を促すことができる可能性が示唆された。