抄録
【はじめに、目的】脛骨、腓骨、距骨から構成される距腿関節は足部と下腿の間で運動を調整している。距腿関節底背屈運動に伴い腓骨の挙上、下制、内旋、外旋などの運動が起こる。脛腓骨の位置関係は距骨の可動性や安定性の変化を引き起こし、他の足根骨間の適合性を変化させる。また、下腿内外旋の運動に関与し、歩行などの荷重を伴う運動時に膝関節や股関節への運動連鎖を引き起こす。そのため、脛腓骨の位置関係を把握することは理学療法の展開を行う上で重要な手がかりとなる。臨床場面において、脛腓骨の位置関係を把握する方法として、足部を床面に接触させない非荷重位の端座位姿勢で、内果と外果の位置を触知し、感覚的に左右の差異を比較する方法を行っている。下腿のアライメントを評価する方法として、下腿捻転角の臨床的計測方法の報告は散見される。水平面における捻転角と前額面における内果と外果を結ぶ線の傾斜角(以下,内外果傾斜角)を関連付ければ、空間における脛腓骨の位置関係を把握するための一助に成り得ると考える。脛腓骨の位置関係の把握や距骨下関節などの他関節との関連を明らかにするための基礎研究として、非荷重位における内外果傾斜角の計測の試行と信頼性の検討を本研究の目的とした。【方法】下肢に疾患を有さない健常成人男性12名(平均年齢26.9±3.6歳)の24脚を対象とした。測定肢位は、昇降式ベッドに端座位をとり、下腿後面がベッドに触れない様に注意し、ベッド面の高さを上げ、足部が床面に触れない肢位とした。脛骨膝関節面の傾斜(以下,脛骨傾斜角)の左右差を確認するため、脛骨膝関節面辺縁を膝蓋腱の内側と外側で触知し、その2点を結んだ線を勾配角度測定器にて計測した。また、内果、外果それぞれの最突出部の2点を結んだ内外果傾斜角を同様に勾配角度測定器にて計測した。測定回数は左右それぞれ3回計測を行った。脛骨傾斜角と内外果傾斜角の各計測値の検者内信頼性を検討するためにICCを算出した。また脛骨傾斜角と内外果傾斜角のそれぞれで左と右の平均値の差の分析を対応のあるt検定を用いて行った。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対して研究の主旨と内容、得られたデータは研究以外で使用しないこと、および個人情報漏洩に注意することについて十分な説明を行い、同意を得て研究を行った。【結果】脛骨傾斜角、内外果傾斜角の各計測におけるICC(1,1)は0.939、0.891であった。脛骨傾斜角の平均値(±標準偏差)は右1.92(±2.40)度、左1.89(±2.28)度となり左右における有意差は認められなかった(p>0.05)。内外果傾斜角の平均値(±標準偏差)は右17.03(±2.11)度、左20.36(±3.68)度となり左右における有意差が認められた(p<0.05)。【考察】内果、外果をランドマークとしてそれぞれの最突出部を結んだ線の傾斜を計測する方法の検者内信頼性を検討した結果、高い級内相関係数が得られた。実際にレントゲン撮影を行った被験者の内外果傾斜角の計測を行うことができれば、妥当性が高まると考える。また、内外果傾斜角の左と右との2標本における平均値の差に有意差が認められた。これは、脛骨傾斜角の左右差に有意差が認められなかったことから、脛腓骨の骨形状や脛腓骨の位置関係に左右差が存在していること示唆すると考える。標本数を増やし、利き足なども考慮し検討することが今後必要である。【理学療法学研究としての意義】今回、信頼性を検討した内外果傾斜角と脛骨捻転角などの他の指標を関連付けることにより、空間における脛骨と腓骨の位置関係を把握するための指標として、また隣接する膝関節や距骨下関節との関連を調査するための指標として応用できると考える。