理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-S-04
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セレクション口述発表
車いすの傾斜機構の違いが座圧に及ぼす影響
桑田 真吾山本 将之植村 弥希子吉川 義之前重 伯壮寺師 浩人杉元 雅晴
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キーワード: 褥瘡, 車いす, 座圧
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抄録
【はじめに、目的】 脊髄損傷者や座位保持が困難な患者に対し,駆動能力,姿勢の改善,食事動作の向上,褥瘡予防,血圧変動への対応などを目的として,リクライニングやティルティングの機能をもつ様々な車いすが開発,製作されてきた.しかし,長時間の座位姿勢は,持続的な尾骨,坐骨部の圧迫をもたらし褥瘡発生リスクが高くなる.これまでも背もたれの傾斜角度変更後の座圧分布についての報告はされているが,pティルティングやリクライニング単独に関する報告が主である.一方,近年ではリクライニングに座面後面1/3の傾斜が連動する新方式の車いすが開発されている.そこで,本研究では,従来のリクライニング型車いすと新方式の傾斜機構をもつ車いすが座圧に与える影響の検討を目的として実験を行った.【方法】 対象は健常学生16名(男性10名女性6名,年齢:23±1.1歳,身長:165.3±2.3cm,体重:59.3±2.4kg)である. 本研究の測定項目は車いす座位時の座圧である.圧力測定には圧分布測定装置(以下FSA;Force Sensitive Applications,タカノ)を用いた. 実験に用いた車いすは,ティルト&リクライニング型車いすKX22-42N(カワムラサイクル;以下リクライニング型車いす)及びリクライニングに座面後面1/3の傾斜が連動する車いすOASIS(松永製作所;以下連動型車いす)である.また,被験者の下衣には3分丈のスパッツを用いた.クッションはどちらの車いすともポリエステル100%シートクッション(公商)を用いた. 車いすは日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会車いす処方箋に基づいて,被験者に合わせて調整した.その後FSAのシート前縁を,車いすのシート前縁と一致するように敷いた. 初期角度は,背もたれの傾斜角度を水平面に対し100°とした.初期姿勢は,被験者に安楽かつ適切な姿勢で着座させ,その後姿勢を修正しないように指示した姿勢とした.そして,背もたれの傾斜角度がそれぞれ125°となるように,デジタルアングルメーター(シンワ測定)で確認しながら緩徐に傾斜させた.それぞれの姿勢について,姿勢を10秒間保持した後に座圧を計測した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の主旨を説明し,同意を得たうえで実験を行った.【結果】 初期角度での座圧はリクライニング型車いすで86.7±4.2mmHg,連動型車いすで81.1±3.7mmHgであった.背もたれ傾斜時の座圧はリクライニング型車いすで89.1±3.6mmHg,連動型車いすで64.1±3.7mmHgであった.初期角度での座圧について車いす間に有意な差はなかったが,背もたれ傾斜時の座圧はリクライニング型車いすで有意に高かった.【考察】 背もたれの傾斜角度を125°までリクライニングさせた場合には,有意差は認められなかったが初期角度と比較して座圧が上昇しており,連動型車いすを125°まで傾斜させた場合と比較して有意に座圧が高かった.被験者の実際の圧分布においては,双方の車いすにおいて傾斜後の最大圧部分が初期角度と比較して有意に後方中央に偏移していた.このことより,傾斜機構の相違に関わらず尾骨部の圧が上昇したが,リクライニング型車いすではより著明に上昇したことが分かる.山崎は,リクライニング式の背もたれは,その支点が座面との接点にあるため,リクライニングすると,骨盤が後傾すると述べている.このことから,初期角度においては坐骨部での支持が得られていたものが,リクライニングにより骨盤の後傾を招き,尾骨部の圧が高まったと考えられる.そのため座面全体における座圧の減少がみられず,むしろ上昇したのではないかと考えられる.一方,連動型車いすでは,背もたれの傾斜と同時に座面の傾斜も起こるため,座面に対する骨盤の傾斜角度の変化は小さい.そのため傾斜後も坐骨部での支持が得られ,尾骨部の圧の著明な上昇を伴わず座面全体における座圧の減少を図ることができたと考える.【理学療法学研究としての意義】 これまで,ティルティングやリクライニング単独に関する座圧変化の報告はあるが,それらが連動する車いすに関する報告はない.本研究は,従来の傾斜機構を持った車いすと新しい傾斜機構の車いすの座圧変化の違いをみた研究である.本研究で得られた結果をもとに,臨床場面において,それぞれの傾斜機構の特性を理解したうえで車いすの選択を行うことができる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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