抄録
【はじめに、目的】当院では臨床実習コーディネーターを設置し,実習指導者へのアドバイス・指導を実施している.それでも臨床実習が順調に進んでいるかどうかの判断は困難であるため,日本語版努力-報酬不均衡モデル調査票を用いて実習生への調査を行い,指導者へのフィードバックツールとして使用している.努力-報酬不均衡モデル調査票とは職業生活における努力と報酬の2つの軸を基に職場の慢性的なストレス状況を把握しようとするモデルであり,当院では質問の一部を実習生向けに変更し使用している.今回は実習指導者へのフィードバックの紹介と,実習中間と最終での変化について報告する.【方法】当院で臨床実習を行った実習生17名を対象とし,臨床実習中間に努力-報酬不均衡モデル調査票を実習生に実施し,努力/報酬比を算出し指導者へフィードバックした.臨床実習最終に努力-報酬不均衡モデル調査票を実習生に実施し,中間時との比較対象とした.努力/報酬比とは調査票より導き出された努力得点を総報酬得点で除したもので,高値でよりストレスリスクが増し,健康リスクにも影響を与えるものである.中間,最終時の努力/報酬比を対応のあるt検定で比較した.統計処理にはR ver. 2.8.1.を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言及び厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針に従い説明と同意を得た.また,日本語版努力-報酬不均衡モデル調査票使用にあたり,作成者からの了解を得た.【結果】実習中間の努力/報酬比は0.85±0.17(mean±SD),実習最終の努力/報酬比は0.83±0.13で努力/報酬比に統計的な有意差は認めなかった.【考察】努力-報酬不均衡モデル調査票は職業生活において費やす努力と,そこから得られるべき,もしくは得られることが期待される報酬がつりあわない,高努力/低報酬状態をストレスフルとしている.努力を測定する尺度は,仕事の要求度,責任,負担を測定する項目から構成される.報酬尺度は労働者が仕事から得られるもの,もしくは期待されるものとして心理的な尊重報酬,職の安定性や昇進に関する報酬および金銭や地位に関連する報酬を測定する項目からなる.仕事量は多いのに不安定な仕事,昇進の見通しや適当な報酬が与えられることなく高レベルの業績を求められる仕事,一生懸命やっているのに正当に評価されない状況,などが努力-報酬不均衡状態の例として挙げられる.今回は実習中間と最終での努力/報酬比に統計的な有意差は認めなかった.しかし,努力/報酬比のばらつきを抑えることができた.指導者への進言としては,高値を示す実習生では努力の抑制や報酬の上積みを求めた.努力/報酬比が平均値に近い状態でも尊重,安定,地位の各報酬にアンバランスがある場合も修正案として提示した.稀に低値を示すケースでは,実習生に負荷をかけ,努力の上積みを要求することや報酬の見直しを求めた.学習とストレスの逆U字理論にもあるように,学習にはある程度のストレスは必要であり,努力/報酬比の低値群の是正にも有効であると考える.【理学療法学研究としての意義】臨床実習において,努力や健康リスクを数値化し,客観的データとして指導の是正に利用することは,指導者の主観で判断される指導の改善につながると思われる.しかし,精度を高めるために,介入例の増加,コントロール群との比較,レアケースへの対応なども検討していかなければならない.