理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-08
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一般口述発表
呼吸困難感を呈する患者に対する理学療法
-理学療法実践における信念対立の解明-
米元 佑太
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抄録
【はじめに,目的】信念対立とは,「それぞれが自分の信念を自覚することなく絶対視することにより起こる根源的な対立」と述べられ,人間科学内部の様々な場面で切実な問題として生じている.その信念対立を解明するために提唱された学問が構造構成学(西條2005)であり,その応用である信念対立解明アプローチ(DAB)(京極2011)が医療保険福祉領域での実践法として定式化されている.今回,呼吸困難感を呈し活動性が低下していた症例に対し,DABを用い理学療法実践を行った結果,対象患者の活動性に従来の方法では見られなかった変化が生じた.またその過程で,呼吸器疾患患者に対する新しい考察と,チーム構成メンバーの行動に変化が生じたため報告する.【方法】対象は慢性閉塞性肺疾患(COPD)による廃用症候群と診断された79歳男性とした.入院時,MMSE 28/30点,FIM 100/126点,6分間歩行テスト 10m(実施後修正Borg Scale 8),千住らのADL評価表の息切れ項目は7/30点であった.全期間通じて運動療法,呼吸理学療法を実施し,理学療法介入開始20日目には身体機能の向上が認められた.しかし,口頭で離床の必要性,有用性を提示しても病棟内では臥床を続けていたため,退院後に再度,廃用症候群に陥ることが予想された.そこで,セラピストは提案に対し対象者が離床を実施しないことを対象者-セラピスト間の信念対立として捉え,DABを用い評価,解明を試みた.その中でセラピストは「離床を促し身体機能の悪化を防ぎたい」と志向し,対象者は「しんどいことはしたくない」と志向していることが明らかとなり,その為に信念対立が生じていると考えた.解明に利用するため慢性疼痛患者の行動様式を表す,fear-avoidance model(FM)を呼吸器疾患患者に当てはまるように変更した図表を作成した.その図表を用いて,不活動と身体や精神機能の関係性についての知識の共有を行い,活動とは離床で十分であることを40分の理学療法介入中に提示した.その中で「しんどいことはできるだけ行わず,今よりもしんどいと感じる事を減らす」という共通目標が決定した.加えて,目的と情報の共有を行うために患者家族,担当ケアマネージャー,病棟看護師にも修正したFMを利用し伝達を行った.【倫理的配慮,説明と同意】本介入はヘルシンキ宣言の精神に十分配慮し執り行なった.また,発表に際し,対象者と対象者家族に口頭,書面にて同意を得た.【結果】介入60日後の最終評価ではMMSE 28/30,FIM 113/126点,6分間歩行テスト 210m(実施後修正Borg Scale 6),千住らのADL評価表の息切れ項目は11/30点となった.加えて,修正したFMを用いた指導の翌日から「こうする位ならしんどくないから,少しずつ起きるようにします」と,自ら時間を決め離床を行うようになった.それに付随し,看護師が対象者に自発的に離床をしたことに対して賞賛し,離床時間の記録とフィードバックを継続して行っていた.結果,退院までほぼ毎日,趣味の読書の時間を離床して過ごす事が可能になった.また,対象者,家族が自発的に退院後も活動性を下げないことを目的とした介護保険の利用方法をケアマネージャーと検討し,デイサービスの利用を決定した.退院後も入院前と比較し離床の時間が減少したことで,廃用症候群の予防に繋がった.【考察】今回,身体機能が向上したCOPD患者に対し口頭にて離床を促していたにも関わらず,病棟内の活動性に変化が生じなかった構造を,対象者-セラピスト間の信念対立と捉えた.DABを用い解明することで,日常生活における活動性が向上した.加えて,それらをチーム医療のメンバーに共有することで,メンバーそれぞれが対象者にとって有益な行動を自発的に行なうことができる素地を生成できた.また今回の介入において利用したFMは,痛み経験を起因とした行動の悪循環を表すモデルである.このモデルにはvisual analog scale等で計測できる感覚的な側面だけではなく,認知・情動的側面も患者行動に関連していることが示されている.そのため,呼吸器疾患患者も従来のBorg Scale等を用いた感覚的な側面だけではなく,認知・情動的側面からの介入によって行動の変化が生じるのではないかと考えた.【理学療法学研究としての意義】理学療法実践に構造構成学,DABを取り入れることが理学療法実践,ひいてはチーム医療実践にも有用である可能性が示唆された.またその過程により生じた呼吸器疾患患者に対する新しい視点は患者理解や介入に有用である可能性も合わせて示唆された.
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© 2013 日本理学療法士協会
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