理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-11
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ポスター発表
体幹伸展方法の違いによる椎間関節の角度変化
冨山 信次浦辺 幸夫前田 慶明笹代 純平森山 信彰
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抄録

【はじめに、目的】脊柱は頸椎から仙椎まで連なっており,それぞれの関節が可動性を有して運動を行う.そのため,脊柱全体で大きな可動性を持ち,アライメントの変化が起こりやすい.腰椎前彎の消失など脊柱アライメントの過剰な変化により円背などの不良アライメントの発生や,腰痛が引き起こされる(Jacksonら1994).その改善を目的として腹臥位からの体幹伸展運動が運動療法として実施されている(山本ら2006).しかし,脊椎の各椎間関節においてどの椎体がどれだけの運動を担っているのかは明らかになっていない.そこで,本研究では安静腹臥位と3 種類の異なった体幹伸展方法で体幹伸展を行った際にそれぞれ脊柱のどの部分で伸展が起こっているのか違いを明らかにすることを目的とした.支持基底面である腰部から遠位に位置する脊椎上部が受ける重力の影響が大きいと考え,仮説は「体幹伸展方法の違いによって脊椎上部の屈曲角度が変化するが脊椎下部の伸展角度は変化しない」とした.【方法】対象は本研究に同意の得られた健常成人34 名(男性18 名,女性16 名)とした.対象の年齢は20.8 ± 0.5 歳,身長は169.4 ± 9.6cm,体重は64.9 ± 15.7kgであった.脊柱アライメント測定にはスパイナルマウス(index社製)を用い,第7 頸椎から第1 仙椎までの各椎体間の椎体角度を計測した.安静腹臥位,前腕を床面につくことによる体幹伸展姿勢保持(以下,上肢支持),胸部に枕を入れることによる他動的な体幹伸展姿勢保持(以下,枕支持),体幹伸展筋による体幹伸展姿勢保持(以下,背筋支持)の4 条件で脊柱のアライメントの測定を行った.体幹伸展の程度は安静時より20cm頭部が挙上するまでと規定した.上肢は体側に沿った状態を保持させた.胸椎の中でも関節を構成している肋骨が胸骨まで付着している第10 胸椎より上部の上部脊椎群と第11 胸椎から第5 腰椎までの下部脊椎群の2 群に分類して,椎体角度の総和を比較した.各条件で測定は3 回行い,その平均値を用いた.得られたデータは対象間の平均値±標準偏差で表し,安静腹臥位と他の条件間の比較に対応のあるt検定を用いた.有意水準5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した.ヘルシンキ宣言に基づき,対象には十分な説明を行った後に研究同意書に署名をうけ,測定を実施した.【結果】上部脊椎群の角度総和は安静腹臥位,上肢支持,枕支持,背筋支持でそれぞれ屈曲18.8±4.2°,20.6±5.2°,12.4±3.6°,4.7 ± 3.1°であった.上部脊椎群では背筋支持と枕支持が安静腹臥位と上肢支持よりも有意に屈曲角度が小さく(p<0.05),背筋支持が枕支持より有意に屈曲角度が小さかった(p<0.05).下部脊椎群の角度総和は安静腹臥位,上肢支持,枕支持,背筋支持でそれぞれ伸展11.4 ± 5.9°,32.4 ± 7.9°,17.5 ± 8.0°,32.7 ± 6.1°であった.下部脊椎群では安静腹臥位は他の3 条件よりも有意に体幹伸展角度が小さかった(p<0.05).枕支持は上肢支持と背筋支持よりも有意に伸展角度が小さかった(p<0.05).【考察】胸椎には肋骨が付着しており脊椎の可動性に影響を及ぼす.そのため,今回は胸椎でも肋骨が胸骨と関節面を構成していない第11 胸椎以下を腰椎と合わせて下部脊椎群とした.上肢支持では体幹上部を前腕で支えているため,枕支持,背筋支持条件よりも上部脊椎群を屈曲位に保つことができ,安静腹臥位との差はみられなかった.しかしそのため,他の体幹伸展条件よりも下部脊椎群で大きく伸展することで脊柱全体の伸展可動域を保持していることが考えられる.背筋支持では他の条件よりも支持基底面が小さく,上半身の重さの分だけ上部脊椎群・下部脊椎群ともに可能な限り伸展させることで支持基底面から近くなるようにしていると考察できる.枕支持では上部脊椎群・下部脊椎群ともに安静腹臥位よりも伸展していたが,上肢支持や背筋支持よりもその程度は小さかった.枕支持では上部脊椎群・下部脊椎群ともに伸展することで可動域を確保している.本研究では仮説と異なり,上部脊椎群と下部脊椎群の伸展の程度はともに体幹伸展方法によって違いがあったため,伸展方法によって脊椎に加わる負担が変化することが示唆された.しかしながら,体幹の筋活動を測定していないため伸展方法による筋活動の大きさが不明であることが本研究の限界といえる.今後は筋活動の測定を行うことや,体幹伸展の程度がより大きい場合に同様の結果が得られるかを検証する必要がある.【理学療法学研究としての意義】上肢支持では上部脊椎,枕支持では上部脊椎群・下部脊椎群ともに加わる負担が小さいため,体幹伸展運動を安全に実施できる.背筋支持では脊柱全体を大きく伸展させており,筋力強化の効果は得られそうだが,関節への負担も大きくなり注意すべきである.

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© 2013 日本理学療法士協会
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