理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-16
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ポスター発表
脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作における座面高と筋活動の関係
植田 和也金井 章菅原 貴志小川 晃平
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抄録
【はじめに、目的】立ち上がり動作は、日常生活で繰り返し行う頻度が高く、脳卒中片麻痺者において動作の可否は活動状況に大きく影響を及ぼす。これまでに片麻痺者の立ち上がり動作の運動戦略として、健常者よりも動作時間が長く、重心の側方動揺が大きい事などが報告されている。一方で、臨床では動作困難例に対して座面高を変化させてアプローチを行う事がある。しかし、座面高が動作中の運動戦略にどのように影響を与えるか検討した報告は少ない。本研究では、脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作において座面高が運動戦略に及ぼす影響を筋活動量の変化から検証し、その特徴を明らかにする事とした。【方法】対象は脳卒中片麻痺者9名(CVA群:男性6名、女性3名、平均年齢64±7歳、平均身長160.1±7.8cm、平均体重61.1±11.1kg)、健常成人7名(Control群:男性5名、女性2名、平均年齢59±6歳、平均身長163.3±6.4cm、平均体重66.4±9.6kg)とした。CVA群は全例右片麻痺を呈しており、下肢BRSはStageⅢが1名、StageⅣが3名、StageⅤが3名、StageⅥが2名であった。計測には表面筋電計(NORAXON社TELEMYO2400TG2 )を使用し、被験筋は腓腹筋、内側広筋、前脛骨筋として、筋活動量を最大収縮に対する動作中の筋積分値の割合から算出した。運動課題は、椅子座位からの立ち上がり動作とし、座面高を各対象者の下腿長を基準として80%、100%、120%の3段階に規定した。計測は裸足でおこない、快適速度で各条件2回おこなった。解析項目は、離殿前後における筋活動量とし、100%条件に対する変化率を算出した。比較検討はControl群、CVA群-非麻痺側(CVA群-SS)、CVA群-麻痺側(CVA群-AS)の3群で、群内および群間の差についておこなった。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されており、全ての対象者には事前に研究に対する十分な説明をおこない、書面にて同意を得た。【結果】座面高による比較では、CVA群-SSでは内側広筋における筋活動量の変化率(離殿前/離殿後)は、100%条件と比べて80%条件で1.49倍/1.71倍、120%条件で0.77倍/0.88倍であり、離殿前後ともに座面高が低くなるほど有意に上昇した(p<0.01)。また、前脛骨筋、腓腹筋は有意差を認めなかった。群間比較では離殿前における腓腹筋の筋活動量(%)は、全条件でCVA群-SS、CVA群-ASがControl群に比べて有意に低値を示した(p<0.01)。内側広筋の筋活動量(離殿前/離殿後)は、CVA群-SSが80%条件で135.4±45.1/118.4±53.2、100%条件で94.6±36.8/81.0±45.1、120%条件で70.5±27.6/63.7±47.4、Control群は80%条件で73.2±48.5/39.4±28.3、100%条件で57.3±36.6/37.5±27.9、120%条件で37.4±16.0/37.8±33.5であり、離殿前後とも80%条件、100%条件ではCVA群-SSが有意に高値を示した(p<0.01)。【考察】今回、CVA群は座面高に伴って、離殿前における前脛骨筋、腓腹筋の筋活動量が変化せず、腓腹筋の筋活動量は両下肢ともにControl群に対して有意に低値であった。Lomaglioらは立ち上がり動作中の筋活動について、前脛骨筋は体幹前傾相における足関節の固定および重心の前方移動に重要であり、下腿三頭筋は姿勢を維持するために離殿直後から伸展相で主に作用すると報告している。一方で、CVA群-SSでは離殿前後ともに内側広筋の筋活動量は座面高が低くなるほど有意に上昇し、Control群に対して有意に高値であった。座面高が低くなると床反力の作用線から関節中心までの距離が延長する為、立位姿勢に至るまでに必要な運動エネルギーは上昇する。その為、脳卒中片麻痺者では、前脛骨筋および腓腹筋の機能低下によって生じた足部不安定性を代償するために、座面高が低くなるほど非麻痺側膝伸展筋を中心に利用した代償戦略を用いると推察された。したがって、体幹前傾時の角速度を増加させる事で重心の前方移動速度を増加させる運動量戦略を用いる事は困難であり、安定型戦略のようなバランスの乱れが少ない動作戦略を選択すると考えられた。【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺者では、座面高が低いほど非麻痺側膝伸展筋を中心とした安定型戦略を利用すると示された事で、動作困難例へ向けた治療アプローチの一助になると考えられた。
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© 2013 日本理学療法士協会
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