抄録
【はじめに、目的】肩関節疾患のリハビリテーションでは棘下筋に対するアプローチが注目されており、肢位や角度、負荷量が肩関節周囲筋の筋活動に与える影響を検討した報告は多い。しかし、運動速度が筋活動に与える影響を検討した報告は少ない。そこで、本研究の目的は肩関節外旋運動時の運動速度が棘下筋・三角筋の筋活動に与える影響を検討することとした。【方法】対象は肩関節に既往のない健常者15名(平均年齢:26.7±4.4歳、平均身長:171.5±7.0cm、平均体重:66.3±10.6kg)とした。全例利き手は右であり、利き手側を測定した。表面筋電図の測定にはマイオトレース400(Noraxon社製)を用い、被験筋は棘下筋と三角筋前部・中部・後部線維とし、電極間距離は2cmとした。測定肢位は側臥位肩関節屈伸中間位・内外旋中間位、肘関節90°屈曲位、前腕回内外中間位とした。運動課題は肩関節内外旋0°から外旋30°までの反復外旋運動とし、メトロノームを用いて60回/分・180回/分の運動速度で実施した。なお、測定順序は無作為に決定した。解析にはマイオリサーチXP(Noraxon社製)を使用し、各運動速度で5回の外旋運動時の平均筋活動を算出した。なお、解析区間は筋電波形が明らかな上昇を示した位置から外旋運動終了までの時間とした。また、各筋の最大随意収縮(MVC)を徒手筋力検査法に準じた肢位で5秒間測定し、中間3秒間の値からMVCの平均筋活動を算出した。各運動速度での平均筋活動をMVCの平均筋活動で除し最大随意収縮時筋活動の相対値(%MVC)を算出した。得られた各運動速度での三角筋前部・中部・後部の%MVCを棘下筋の%MVCで除し棘下筋に対する三角筋前部・中部・後部の筋活動の割合を算出した。検討項目は、棘下筋に対する三角筋前部・中部・後部の筋活動の割合を運動速度間で比較した。統計処理はSPSS ver12.0を使用し、Mann WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は船橋整形外科病院倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には本研究について口答にて説明し同意を得た。【結果】棘下筋に対する三角筋前部の筋活動の割合は60回/分では7.0%であり、180回/分では11.2%であり有意差を認めなかった。棘下筋に対する三角筋中部の筋活動の割合は60回/分では13.1%であるのと比較し、180回/分では22.9%であり有意に高値を示した。棘下筋に対する三角筋後部の筋活動の割合は60回/分では21.4%であるのと比較し、180回/分では38.2%であり有意に高値を示した。【考察】本研究では60回/分と180回/分という運動速度での検討を行い、運動速度の増加に伴い棘下筋に対する三角筋中部・後部の筋活動が有意に増加した。このことから、一定以上の運動速度における外旋運動では棘下筋に対する三角筋中部・後部の筋活動が大きくなることが示された。【理学療法学研究としての意義】腱板断裂術後のリハビリテーションではより選択的に棘下筋の活動を促通することが重要とされている。本研究より180回/分では60回/分より棘下筋に対する三角筋中部・後部の筋活動が大きく、三角筋が活動しやすい運動速度であったと考えられた。このことから、棘下筋をより選択的に促通する場合は180回/分と比べ60回/分のほうが有用と考えられた。運動速度は負荷を決定する要因の1つであり目的にあった運動速度で実施することが重要と考えられた。