理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-03
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セレクション口述発表
橈骨遠位端骨折術後の手関節機能的可動域の評価
dart-throwing およびopposite dart-throwing motion とDASHの関係
粕渕 賢志土肥 義浩藤田 浩之福本 貴彦
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抄録

【はじめに、目的】近年,手関節の機能的な運動方向として橈背屈から掌尺屈のダーツスロー・モーション(以下 DTM)が注目されている。DTMの運動で日常生活活動(以下 ADL)にあまり不自由をきたさないといわれている。橈骨遠位端骨折後では,ADL能力と関節可動域(以下 ROM)には関連がなく,握力のみ関連があるとの報告が多い。そこで,我々はDTM面ROMとADL能力の関係を調査し,DTM面ROMとADL能力に相関が得られたことを報告した。また,DTMに直交し橈掌屈から尺背屈のopposite DTMは橈骨遠位端骨折後に必要な橈骨手根関節の動きが中心となる。よって,今回はopposite DTM面ROMの評価も加え,橈骨遠位端骨折後症例の身体機能とADL能力の関係を調査することとした。【方法】対象は,橈骨遠位端骨折後症例26名,平均年齢65.7 ± 10.6歳,男性7名,女性19名であった。骨折型はAO分類type A 5例,typeB 2例,TypeC 19例であり,治療方法は26例とも掌側プレートであった。評価時期は受傷後から平均10.3 ± 6.0ヵ月後であった。評価項目は身体機能とADL能力を評価した。身体機能は患側の掌背屈,橈尺屈,回内外,DTM面,opposite DTM面のROMと握力の患健比とし,それぞれ二回ずつ測定し,平均値を求めた。DTM面ROM,opposite DTM面ROMは開発した専用のゴニオメーターで測定した。DTM面は手根中央関節の回転軸が斜め45°に貫通していることから,DTM面用ゴニオメーターでは前腕回内45°の肢位から上方を橈背屈,下方を掌尺屈と定義して測定した。opposite DTM面ROMはDTMに直行している運動方向のため,前腕回外45°の肢位にて上方の橈掌屈から下方の尺背屈と定義して測定した。ADL能力はDASHスコアにて評価した。統計学的解析はDASHスコアを従属変数とし,各ROM,握力の健患比を独立変数として重回帰分析を行い,ステップワイズ法により変数を選択した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究倫理委員会の承認(H21-15)を得て行った。被験者に対し研究の説明を行い,同意を得られた者のみデータを採用した。【結果】DASHスコア21.1 ± 24.4点,掌背屈114.2 ± 28.7°,橈尺屈60.8 ± 17.2°,回内外163.3 ± 31.9°,DTM面ROM 68.1 ± 25.9°,opposite DTM面ROM58.8 ± 21.1°,握力の患健比0.76 ± 0.28%であった。重回帰分析の結果,DASHスコアに関連する因子としてDTM面ROM(Partial regression coefficient(PRC):-0.556),opposite DTM面ROM(PRC:-0.392)が選択され,回帰モデルの寄与率は77%であった。【考察】DASHスコアに関連する因子としてDTM面ROMとopposite DTM面ROMが選択された。重回帰分析の結果,最もDASHスコアと関連していたことから,橈骨遠位端骨折後においても同様にDTM面ROMが最もよく使う運動方向であると考えられる。さらに,ADLでは尺背屈方向の動きを用いるとも報告されている。尺背屈とはopposite DTM面の運動であり,本研究でも橈骨遠位端骨折後にopposite DTM面ROMも重要であるということが示された。opposite DTMは橈骨手根関節の動きが中心であり,橈骨遠位端骨折後は橈骨手根関節の回復と早期からのROM exerciseが重要であると報告されている。よって,橈骨手根関節に障害が生じる橈骨遠位端骨折後では,opposite DTM面ROMの回復により,手関節の機能が向上しDASHスコアの改善に繋がるのではないかと考えられる。また,DTMは手根中央関節が中心の運動であり,橈骨手根関節の動きは少なくなるため,術後早期から骨折部にストレスをかけずに手を動かすことができるかもしれないといわれている。よって,DTM面とopposite DTM面のROM exerciseを組み合わせることにより,有意義な理学療法に繋がると考えられる。【理学療法学研究としての意義】橈骨遠位端骨折ではADL能力に,DTM面とopposite DTM面のROMが重要であることが示された。またDTM面とopposite DTM面のROMは理学療法において,治療,評価のどちらにも重要であると示唆された。

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© 2013 日本理学療法士協会
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