抄録
【はじめに、目的】分離症の発生要因の一つとして股関節の柔軟性低下が報告されている。スポーツ動作において、股関節の可動域制限は代償的に腰椎の過剰運動を惹起する。また、腰椎分離症の骨折線は一様ではないとされている。腰椎関節突起間部(以下、Pars)への応力は特に体幹伸展と回旋運動の際に集中するが、伸展時と回旋時ではParsの応力集中部が異なるため、Parsへ加わるストレスの方向が骨折線の向きと関連することが想像できる。この2点を組み合わせると、股関節伸展制限によりParsへの伸展ストレスが大きくなると、骨折線が環状断に近くなり、回旋制限により回旋ストレスが大きくなると、矢状断に近くなることが予測される。今回、当院の分離症症例における骨折線の角度と股関節の柔軟性低下の関連性を報告する。【方法】対象は平成20年4月から24年8月までに当院を受診し、腰椎分離症と診断された症例のうち、股関節柔軟性に関する情報を入手できた76例108椎(13.71±1.41歳)である。まずCT画像を元に、椎孔の横径と骨折線がなす角度(分離角度)を計測した。また、椎間関節も同時に確認できる症例(73例104椎)においては、三宅らの方法に基づき、椎体後縁と椎間関節との角度を椎間関節角とし、併せて骨折線との関連性を調べた。次に、分離角度の中央値を境に、角度の大きい群(以下、回旋type;R群、51椎、34.33±10.08°)と角度の小さい群(以下、伸展type;E群、57椎、12.47±6.55°)に群分けした。全ての症例に対し、ハムストリングス(以下Hs)、大殿筋(以下Gm)、腸腰筋(以下Ip)、大腿筋膜張筋(以下Tf)、大腿直筋(以下Rf)のtightnessテストを行い、基準および評価は、田中らの報告に従った。それぞれの群におけるtightnessテストの陽性率を対比検討した。統計処理には、椎間関節角と分離角度の関連性はPearsonの相関係数の検定を、各群のタイトネス陽性率はχ²検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院における倫理審査委員会の承諾を受けて実施した。【結果】1.股関節tightnessテスト76例の腰椎tightnessテストの陽性率は、SLR67.46°(90°以上は3.9%、75°以上は27.6%)、Gm65.78%、Ip73.68%、Tf94.74%、Rf81.58%であった。2.椎間関節角と分離角度の相関73例104椎の分離角度は21.16±16.66°、椎間関節角は47.33±10.01であり、低い正の相関が認められた(r=0.35)。3.各群のタイトネス陽性率SLR(R群67.20°、E群68.02°)、Gm(R群64.71%、E群63.16%)、Ip(R群68.62%、E群73.68%)、Tf(R群94.11%、E群89.47%)においては有意差は認められなかった(p<0.05)。Rfは、R群68.63%、E群87.71%であり、有意にE群の方が高かった(p<0.025)。【考察】分離症の主たる発症要因はParsの疲労骨折であり、一因として股関節の柔軟性低下が挙げられている。今回は田中らの報告に、回旋要素であるGmテストを加えて調査を行ったところ、多くの症例において同様にtightnessテストが陽性であった。西良らは分離症の骨折線の個体差より、Parsにかかるストレスの多様性を示している。また、腰椎伸展時には両側のParsに環状断に近い応力集中が、回旋時には反対側のParsに矢上断に近い応力集中が見られると報告している。しかし、股関節の柔軟性と骨折線との関連性に関する報告は、我々が渉猟し得た限りでは見当たらないため、骨折線の角度と股関節柔軟性低下の関連性を調べた。まず、椎間関節角の個体差を考慮し、椎間関節角と分離角度との関連性を検討した。正の相関が認められたものの、その相関性は低く、分離症発生には椎間関節の運動方向とは別の要因が関わるということを示唆する結果となった。次に、R群とE群間の股関節tightnessテスト陽性率の比較を行った。有意差はRfのみに認められ、Gm、TfはR群の方が、IpはE群の方が陽性率が高かったものの、いずれも有意差は認めなかった。したがって、田中ら、西良らの報告と同様な傾向を示したものの、今後、腰椎アライメントや種目別の動作特異性の関連を調査する必要があると思われた。【理学療法学研究としての意義】骨折線と股関節柔軟性の関連性を調査することで、分離症発生の要因を追究した。