抄録
【はじめに、目的】近年、脊椎変性疾患患者の脊椎・骨盤の関係性(spinopelvic balance)評価の重要性が取り上げられており、中でも、医師の腰部変性疾患(Lumbar degenerative disease:以下LDD)に対する治療指標の一つとして、立位や座位でのX線矢状面骨盤パラメータの計測が盛んに行われている。当院では平成24年九州PT・OT合同学会にて、座位骨盤パラメータを用いた医師・セラピスト間での身体評価基準の統一化の試みについて報告し、座位での脊椎・骨盤帯の可動性を診る上で制限因子となり得る要因を検討していく必要性が示唆された。本研究は、LDD患者の座位X線矢状面骨盤パラメータ間、また股関節可動域との関連性を調査し、腰椎骨盤リズム、骨盤大腿リズムにおける股関節可動域の重要性を検討することである。【方法】対象は当院にてLDDと診断された患者26名(男性:14名,女性:12名,身長:159.7±9.7cm,体重:59.4±9.4kg,年齢:64.9±14.3歳)。[疾患内訳]腰椎椎間板ヘルニア:6名、腰椎変性辷り症:11名、腰椎変性後弯:3名、腰部脊柱管狭窄症:6名。当院腰部X線評価時に撮影した[1]腰椎伸展位[2]腰椎屈曲位の画像から、Legayeらが提唱するX線矢状面骨盤パラメータの骨盤傾斜角(pelvic tilt以下:PT)、仙骨傾斜角(sacral slope以下:SS)、Jacksonらが提唱する腰椎前弯角(以下、LLA)を、NIH社製画像処理ソフトウェアImage Jにて計測した。対象患者の症状出現側の股関節可動域を日本整形外科学会制定の方法に準じて計測した。画像より計測した[1],[2]のSS,PT,LLA値と、[1]-[2]でのSS,PT,LLA値の変化量を算出。各パラメータ間の相関関係と、測定した症状側股関節各可動域と各パラメーター間の相関関係をスピアマンの順位相関関係数検定(統計解析Statcel、有意水準5%未満)にて統計処理した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準じ、研究内容に関しては目的・方法を書面にて説明し、患者の承諾を得て実施している。【結果】SS・PTそれぞれの変化量間では非常に強い負の相関(rs=-0.81,p<0.01)、PT・LLAの変化量間では中等度の負の相関(rs=-0.58,p<0.01) 、SS・LLAの変化量間では中等度の正の相関(rs=0.42,p<0.05)がみられた。また、SS変化量と股関節内旋可動域に中等度の正の相関(rs=0.45,p<0.05)、LLA変化量と股関節内旋可動域に中等度の正の相関(rs=0.44 p<0.05)がみられた。他の項目での相関はみられなかった。【考察】Legayeらは、X線矢状面腰椎骨盤帯のバランス評価にはSS・PTに加え、その合計値から算出されるPelvic Incidence(以下、PI)を含めたバランス評価が重要であると述べている。今回の結果から、LDD患者の動態撮影における骨盤パラメータのSS・PTの変化量に非常に強い負の相関がみられたことは、Legayeらの報告を支持する結果となっている。またPT値の増加(骨盤後傾)で腰椎は後弯し、SS値の増加 (仙骨前傾)で腰椎は前弯する傾向があることも、今回の結果から示唆された。また、座位動態評価におけるLDD患者の姿勢制御の傾向として、慢性的に骨盤後傾位を強いられることで、股関節外旋肢位が持続して股関節内旋可動域の低下が生じた場合、仙骨に起始を有する股関節外旋筋の作用により、動的場面での仙骨の前傾運動が阻害される為にSS値が低下したと考えられる。さらに、SS値が低下することで、結果の示す関係性からLLAも同様に低値を示す事が示唆され、骨盤後傾位でのマルアライメントを呈すことで、腰部変性疾患の発症の可能性を強めてしまうことが示唆された。今回の研究は、医師の病状評価において一般的に撮影される座位動態X線腰椎骨盤パラメータと股関節可動性の関連性を調査したが、今後は立位でのspinopelvic balanceを含め、LDDを各疾患にて細かく分析し、疾患別での股関節各可動域との関連性を調査していく。【理学療法学研究としての意義】座位動態骨盤パラメータに股関節可動域制限が影響を与えることが示されたことから、LDDに対する理学療法士の介入の必要性が示唆される。