理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-29
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ポスター発表
姿勢制御における聴覚および視覚を用いた注意課題の及ぼす影響
藤田 浩之粕渕 賢志森岡 周
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キーワード: dual task, 姿勢制御, 感覚情報
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抄録

【はじめに、目的】日常生活における不可欠な動作の一つである立位姿勢制御においては様々な要因によって構成されている.その姿勢の制御は従来の反射的姿勢制御を中心とした筋骨格系や感覚系での制御に加えて,これらの前庭,視覚,体性感覚と統合させるための注意といった認知機能も同様に必要であることが明らかになっている.立位姿勢制御における注意の関与を明らかにした方法には主に,2 重課題(dual task)を用いた立位姿勢制御研究から報告されている.近年では,これらの研究結果をふまえて,歩行や立位姿勢能力における2 重課題への対応能力の低下が,高齢者の転倒などの身体的機能の影響と関連することが多く報告されている.しかしながらその一方で,運動課題におけるdual taskに関する報告は肯定的なものと否定的なものが散見しており,dual taskが立位姿勢制御へ影響を及ぼすことは明らかであるが,その結果は姿勢制御に対して抑制に作用する場合や反対に促進に作用する場合と,散見しており様々な見解がある.その散見する要因の一つにそれぞれのdual taskのもつ課題の特異性による影響が考えられる.そこで,本研究では,若年健常者を対象に,日常生活において用いる機会の多い感覚器である視覚と聴覚に着眼し,それぞれの2 重課題における立位姿勢制御への影響について検討することを目的とした.【方法】対象者は,著明な脳血管障害,整形疾患,視力障害の有さない健常若年者40 名(年齢:19.7 ± 4.1 歳 身長:157.8 ± 6.7cm 体重:58.5 ± 5.5kg)とした.立位姿勢制御の評価として圧力分布測定装置(ANIMA, Ltd. MD-1000)を用い,総軌跡長を以下の条件で測定した.それぞれの条件は,安静片脚立位(Single task:ST)条件,片脚立位2 重課題(Visual dual task:VDT)条件,片脚立位2 重課題(Audio dual task:ADT)条件の3 条件で総軌跡長を測定した.それぞれの片脚立位課題は利き足を支持脚とし挙上側の下肢については特に肢位は規定しなかった.両上肢は体側に沿って自然に下ろした肢位とし,利き脚はボールを蹴る脚とした.また,被験者に課したdual taskについては,視覚刺激としてストループテストをVDT条件とし,また聴覚刺激においては100 から7 を順次に減算する課題(serial-7s)をADT条件として使用した.また,それぞれの課題の計測はランダムに実施した.統計処理として,ST条件とVDT条件およびST条件とADT条件のそれぞれの2 群においてpaired t testを用いて統計処理を行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準拠し,すべての被験者に対し実験についての内容及び目的に関して説明を事前に行い,実験の途中であっても中止を申し入れることが可能であることを伝え,文書にて同意を得た上で実験に参加した.【結果】ST条件とVDS条件の総軌跡長の比較において両群に有意な差は認められなかった(p>0.05).ST条件とADTの総軌跡長の比較においては両群で有意な差を認めた(p<0.05).【考察】本研究において,STとVDT条件では有意な差を認めなかったのに対し,ST条件とADT条件ではADT条件において総軌跡長が延長し,両群に有意な差を認めた.VDT条件はADTに比べ,人間の感覚記憶,短期記憶の情報の保存時間が高く,姿勢制御への干渉を受けにくいことが考えられる.一方で,聴覚に対する情報は視覚に対する情報と異なり,時間経過に対し持続的に提示できない一過性のものである.そのため外部への追参照がされにくいことから,ADTではVDTに比べ,感覚記憶,短期記憶の情報の保存性が低く,より積極的に課題の達成を図ったことから姿勢制御に対し干渉を受け,総軌跡長に大きな差を認めたと考える.また,姿勢制御において視覚が最も重要なモダリティーであることにより,VDTとADTにおいてその課題の提示方法が異なり,VDTにおける課題の提示方法が視覚同定のターゲットとなりその結果,姿勢の安定性へ加味さられたことが考えられる.高齢者では簡単な暗算や文字の読み取りなどをさせながらバランス能力,筋力,敏捷能力などの運動能力が低下することが報告されている(Melzer2004).しかしながら,本研究では若年者においても課題とするdual taskの特性により姿勢制御に対し,その影響を認めることが本研究から示唆された.【理学療法学研究としての意義】認知機能の改善や転倒の予防に2 重課題は有益な手段となりえる.しかしながら,治療介入や評価の際には単に2 重課題を用いるのではなく,様々な2 重課題の特性やその意味を理解し,疾患や症状に応じた2 重課題を選択することで,有益な臨床応用につながることが考えられる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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