理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-29
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ポスター発表
表皮内電気刺激による痛覚誘発電位,交感神経活動の呼吸による変化
岩部 達也尾﨑 勇橋詰 顕福島 真人
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キーワード: 誘発電位, 痛覚刺激, 呼吸
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抄録

【はじめに、目的】我々は,昨年の本学会で表皮内電気刺激法を用いて,呼息と吸息に一定強度の痛覚刺激 (閾値の3 〜4 倍) を与えて,痛みの主観,痛覚誘発電位,交感神経活動を検討した結果,呼息相では痛みスコアが小さく,脳電位,交感神経活動も小さいことを報告した.本研究では,刺激装置にPAS7000 を用いて,痛覚閾値レベルとその4 倍の刺激強度で記録し,痛みスコア別に,誘発電位と交感神経活動を比較した.【方法】対象は健常男性10 名 (19 〜25 歳) で,平均身長172.9 (167.5 〜178) cm だった.被験者はヘッドレスト付の肘掛椅子に座り,リラックスした状態を保った.左手背に表皮内電気刺激を与えてpainを誘発し,被験者毎に痛みを感じる最小強度 (痛覚閾値) を決定した.脳波,交感神経皮膚反応(SSR),指尖容積脈波(DPG),呼気CO 2 濃度を連続的に記録し,CO 2 濃度が20 mmHgを越えた時(呼息)か下回った時 (吸息) に閾値の4 倍で刺激した.Habituationが生じないように1 試行10 分未満で,刺激間隔を数十秒あけて呼息,吸息各相10回刺激した.十分な休息をとり2 試行を行った.被験者は刺激毎に痛みの主観を右の示指(Wong-Baker スケール,以下WBS,スコア1)と中指 (WBSスコア2) の伸展で判断した.脳波は加算平均し,痛覚誘発電位N1,P1 を解析した.SSRも加算平均し,陰性-陽性振幅を解析した.DPGは刺激前4 拍の振幅の平均値を求め,刺激後8 拍までの変化を%比で表した.同様の実験を,閾値の強度と刺激強度0 mA (sham刺激) でも行った.統計解析は,閾値刺激ではWBSスコア0 と1,閾値4 倍刺激ではスコア1 と2 の割合が呼吸相で異なるかについてχ2 検定を行った.N1,P1,SSRの最大振幅と頂点潜時については,閾値とその4 倍刺激のそれぞれで,呼吸相の間でpaired t-testを行った.DPG振幅については,閾値とその4 倍刺激のそれぞれで,呼吸相 (呼息相と吸息相) と脈拍 (刺激前の平均から刺激後8 拍まで) の2 要因で繰り返しのある2 way ANOVAを行い,事後検定としてpaired t-testを行った.また,DPG振幅の経時的変化について,各呼吸相での閾値刺激,閾値4 倍刺激,sham刺激のそれぞれに繰り返しのある1 way ANOVAを行い,事後検定としてBonferroniの多重比較を行った.これらの統計解析は,IBM SPSS Statisticsを用いて行い,有意水準はp < 0.05 とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は青森県立保健大学倫理委員会の承認を得ており,対象者には実験内容を十分に説明し,書面により同意を得た.【結果】試行中,一定強度で刺激したが,痛みスコアは閾値刺激では0 と1,閾値4 倍刺激では1 と2 の間で変動した.また,その割合は呼吸相で異なり,閾値刺激では吸息時に1 と判断した数が全200 回中165 回で,呼息時45 回よりも多く (p < 0.001),閾値4 倍刺激では,吸息時に2 と判断した数が全200 回中148 回で,呼息時67 回よりも多かった (p < 0.001).痛覚誘発電位の振幅は,閾値刺激ではN1 で吸息/呼息,-4.1 ± 0.8/-1.7 ± 0.8 μV (平均値 ± 標準誤差),P1 で吸息/呼息,12.7 ± 1.0/3.4 ± 1.2 μVであり,閾値4 倍刺激では,N1 で吸息/呼息,-11.5 ± 1.2/-5.4 ± 1.3 μV,P1 で吸息/呼息,22.5 ± 2.3/15.7 ± 2.2 μVであった.閾値刺激と閾値4 倍刺激のいずれも,呼息時で振幅が小さかった.SSR振幅は,閾値刺激では吸息/呼息,1.3 ± 0.3/0.2 ± 0.1 mVであり,閾値4 倍刺激では吸息/呼息,1.7 ± 0.5/0.6 ± 0.3 mVであった.閾値刺激と閾値4 倍刺激のいずれも,呼息時で振幅が小さかった.DPG振幅は,刺激から約4 拍で低下をはじめ,約6 拍で最大に低下した.呼吸相で比較すると,閾値刺激では2 拍,5-8 拍,閾値4 倍刺激では2 拍,5-6 拍と8 拍で吸息時で有意に低下した.痛みスコア0,1,2 で分けて脳波,SSRを加算すると,N1,P1 振幅はスコアに比例して変化し,SSR振幅もまたスコアに比例して変化した.【考察】本研究では,呼息相と吸息相に痛覚閾値とその4 倍強度で刺激を与えた結果,どちらの強度でも痛みの主観が呼息相で減弱し,N1,P1 の振幅も減少した.また,SSR振幅も呼息相で減少し,DPG振幅の低下も減少した.これは,刺激強度レベルに関わらず呼息時に痛みが抑制されやすいことを示している.PAGへの刺激によって痛みが抑制することから,痛覚脊髄後角ニューロンの活動は脳幹由来の下行性経路によって調節されていることが知られている.ラットでは呼息相や吸息相で活動するセロトニン作動性の大縫線核細胞があることが報告されている(Masonら,2007).呼吸相に伴うこのような活動変化が下行性疼痛抑制系に影響を及ぼした可能性が考えられる.【理学療法学研究としての意義】呼吸によって痛みの程度に変化が生じることから,理学療法対象者の呼吸を変化させることで痛みを制御できる可能性がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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