理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-46
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ポスター発表
地域在住高齢者における多関節痛と転倒発生
~介在要因の探索~
浅井 剛澤 龍一三栖 翔吾土井 剛彦山田 実
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抄録
【はじめに、目的】 高齢者の転倒発生と関節痛の関係性を検討した大規模なコホート研究において、二箇所以上の関節痛は、運動機能障害などの要因からは独立して転倒発生と関連していることが報告されている。多関節痛が身体機能に及ぼす影響と転倒リスク要因に関する報告から、転倒発生と多関節痛の間には複数の介在要因が存在すると考えられており、痛みによる「注意機能への干渉」と「筋萎縮」の二つが可能性の高い要因として挙げられている。本研究では、痛みによる注意機能への干渉の程度の指標として「二重課題下の歩行速度変化」、筋萎縮の指標として「体重あたりの骨格筋量」を測定し、これらの要因と多関節痛および転倒発生との関連を検討することで、高齢者における多関節の痛みが転倒へつながるメカニズムの探索を行った。【方法】 認知機能障害を有さない地域在住高齢者94名(男/女:37/57,年齢73.0±3.9歳)を対象とした。関節痛評価シートを用いて慢性関節痛の数を問診聴取し、さらに質問紙を用いて一日の服薬数と過去一年間の転倒歴を調べた。自由歩行速度と二重課題歩行速度を測定し、自由歩行に対する二重課題歩行の歩行スピードの変化率をdual-task cost(DTC[%])として求めた。二重課題歩行の課題には100から1ずつ数字を口頭で引いていく課題を用いた。骨格筋量の測定にはInBodyS20(Biospace)を用いて全身の骨格筋量を求め、体重の影響を取り除くために体重あたりの骨格筋量[wt.%]を求めた。運動機能として、Timed up & go(TUG)、5 chair stand(5CS)を計測した。慢性関節痛の数で対象をzero(なし)、single(一箇所)、multi(二箇所以上)の3群に分け、関節痛の数と転倒歴との関連を4つの名義ロジスティックモデルを作成して検討を行った(モデル1:従属変数:転倒歴,説明変数:関節痛および運動機能(TUGと5CS),調整変数に年齢,性,一日の服薬数,モデル2:モデル1にDTCを説明変数として追加,モデル3:モデル1に体重あたりの骨格筋量を説明変数として追加,モデル4:モデル1にDTCと体重あたりの骨格筋量の両者を説明変数として追加)。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき研究計画書を作成し,所属機関の了承を得た上で実施した。研究測定の実施に先立って、対象患者およびその家族に対して本研究の趣旨と内容について紙面と口頭にて説明を行い書面に同意を得た。【結果】 94名の対象者のうち、19名(約20%)が過去一年の転倒歴を有していた。関節の痛みはzero群47名(50.5%)、single群29名(30.9%)、multi群18名(19.1%)であった。4つの名義ロジスティックモデルの全てで関節痛は転倒歴に対して有意な影響を及ぼしていた(モデル1: χ2 = 8.0, オッズ比(multi群/zero群) = 7.4, p = 0.018, モデル2: χ2 = 7.3, オッズ比(multi群/zero群)= 7.4, p = 0.025, モデル 3: χ2 = 8.0, オッズ比(multi群/zero群)= 6.9, p = 0.019, モデル4: χ2 = 7.32, オッズ比(multi群/zero群)= 6.9, p = 0.026)。一方、各モデルに投入されたDTCおよび体重あたりの骨格筋率は全てのモデルで転倒歴に対して有意な影響を及ぼしていなかった。【考察】 本研究の結果から、多関節痛は筋萎縮や注意機能への干渉といった要因を介さずに高齢者の転倒発生に影響を及ぼしていることが示唆された。関節の痛みが、運動機能の低下、注意機能への干渉、骨格筋の萎縮といった要因を介さずに転倒の発生に影響していたことは、関節痛に関連する転倒の発生に、今まで考えられてきた発生メカニズムとは異なるメカニズムも関連している可能性を示唆している。本研究では、対象が比較的運動機能の高い高齢者であったことから、関節痛による身体機能への影響が最小限に抑えられた可能性も考えられる。今後更に、関節の痛み、特に多関節の痛みがどのようなメカニズムで転倒の発生に関連しているのかについて十分な検討を行う必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法研究として、本研究の結果は、転倒発生における慢性関節痛の影響を理解する上で意義があると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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