理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-23
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ポスター発表
バルーン上座位保持での非利き手による下手投げ投球課題を基にした運動学習方法の違いによる体幹筋筋活動と総軌跡長の検討
實光 遼木原 良輔徳山 義之山田 洋子岡本 雄大米田 浩久鈴木 俊明
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抄録

【はじめに】運動学習条件に分習法と全習法がある(Sheaら,1993)。分習法は学習動作の運動要素を別々に練習する方法であり、全習法は獲得する動作を一貫して練習する方法である。分習法は難易度の高い運動に有用な反面、全習法よりも時間を要する。一方、全習法は分習法に比べ学習効果が高く運動学習の達成度は早い。しかし、我々は分習法を用いた方で学習効果が高い印象を持つ。今回、バルーン上座位による下手投げ投球課題での分習法と全習法による運動学習課題を実施し、運動学習前後の検定課題での体幹筋筋活動と総軌跡長をもとに分習法の学習効果を検討した。【方法】健常大学生24 名(男子19 名、女子5 名)を対象とした。検定課題はバルーン(直径64cm)上で両足部を離床した座位を5 秒保持させた後、同じ姿勢で非利き手による目標へ下手投げ動作をおこなわせ、さらに5 秒間バルーン上座位を保持させた。2m前方にある目標の中心にお手玉が当たるように指示し、学習課題前後に1 回ずつ実施した。目標は90cm四方の合板上に3 つの同心円(直径20cm、40cm、60cm)を描いた的とした。目標上のお手玉の座標と得点をもって投球結果とした。実施は学習前に全群で検定課題を実施した後、各群に応じた学習課題(A群は検定課題と同様にバルーン上座位による目標への投球を12 セット、B群は椅座位での投球6 セット実施後にバルーン上座位を6 セット、C群は椅座位での投球とバルーン座位を交互に6 セットずつ)を実施し、その後、再度検定課題を全群で実施した。表面筋電図(キッセイコムテック社製)と体圧分布計測システム(ニッタ社製)により学習前後の体幹筋表面筋電図積分値(筋電図積分値)と総軌跡長を計測して比較した。計測筋は両側外腹斜筋、腹直筋、多裂筋の計6chとした。電極はディスポ電極とした。学習前後とも検定課題開始1 秒後から2 秒間の筋電図積分値を抽出し、対象者別に学習後筋電図積分値を学習前で除した表面筋電図積分値相対値(筋電図積分値相対値)を算出した。課題実施中の荷重の変化を計測するため体圧分布計の圧センサーシートをバルーンの下に敷き、検定課題中の圧分布(kg/cm 2 )を60Hzにて取得した。体圧分布計は運動学習前後ともに検定課題開始から終了までを計測し、荷重中心から総軌跡長を求めた。筋電図積分値と総軌跡長の比較には対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】対象者に趣旨と方法を説明し同意を得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】投球結果は検定・学習課題ともにB群で有意な成績の向上を認め、学習中の投球結果の変動係数の減少と変動率の安定化を認めた。筋電図相対値の結果(A群/B群/C群)を以下に示す。右外腹斜筋0.7 ± 1.2/0.5 ± 0.4/0.8 ± 0.6、左外腹斜筋0.7 ± 0.7/0.4 ± 0.3/0.9 ± 1.6、右腹直筋0.4 ± 0.2/0.7 ± 0.9/1.0 ± 0.9、左腹直筋0.6 ± 0.4/0.6 ± 0.3/1.0 ± 0.9、右多裂筋0.9 ± 0.6/1.2 ± 1.1/0.8 ± 0.6、左多裂筋1.2 ± 1.6/0.9 ± 0.4/1.3 ± 0.8 であった。学習前後の筋電図積分値を用いた統計では、B群の右外腹斜筋で学習後に有意な筋活動減少(p<0.05)を認めた。一方、学習前後の総軌跡長(cm)の比較(学習前/学習後; mean±SD)ではA群で186.3 ± 102.3/176.0 ± 93.8、B群で187.7 ± 94.9/153.1 ± 60.1、C群で222.4 ± 67.9/227.1 ± 56.1 であった。B群で学習後の総軌跡長が減少する傾向(p=0.08)を認めた。【考察】目標への投球課題ではテークバック後からフォロースルーにかけての投球側上肢の運動軌道が目標への方向性と距離を決定する上で重要となる。本実験では全て左上肢による投球のため投球後に要する体幹の運動は右回旋であった。一側外腹斜筋の筋活動で対側への体幹回旋を生じるが、B群では右外腹斜筋に有意な筋活動低下を認めた。このことは投球時に要する体幹右回旋が他群に比べて容易になったことを示す。そのため、投球側上肢の運動軌道が阻害されず、目標への方向性と距離が安定したため投球結果の有意な向上につながったと考える。つまり、分習法であるB群の運動学習により課題遂行のための合目的的な体幹筋筋活動を獲得できたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の結果では課題遂行を達成するための姿勢の改善を分習法によって獲得することで運動学習効果が高まることが示唆された。姿勢改善を目的とする分習法の応用は理学療法にとって有用であると推察される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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