理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-08
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ポスター発表
着地動作中の膝関節運動と月経周期の関係
櫻井 好美石井 慎一郎前田 眞治
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抄録

【はじめに、目的】 女性は同競技の男性選手よりも前十字靭帯(ACL)損傷の発生率が高く月経期の発生が多いことが報告され,これは月経随伴症状の影響であるとされている.一方,組織学的研究では女性ホルモンがACLのコラーゲン構造と代謝に影響を与えることが解明され損傷リスクが高いのは黄体期であると示唆されており,疫学的研究と異なるものである.また,競技関連動作中の膝関節運動について男女差を検討した報告は散見されるが,月経周期と膝関節の動的アライメント変化の関係については明らかになっていない.そこで本研究はPoint Cluster法(PC法)を用いた三次元運動計測により着地動作中の膝関節運動を解析し,月経周期との関連を調べることを目的に行った.【方法】 被験者は下肢に整形外科的既往がなく,関節弛緩性テストが陰性の健常女性30名(19~24歳)と健常男性10名(20歳~23歳)とした.女性には12週間毎日の基礎体温と月経の記録を求めた.三次元動作計測は7日ごとに12回行い課題は最大努力下での両脚垂直ジャンプとし両脚同時に着地した.被験者の体表面上のPC法で決められた位置に赤外線反射標点を貼付し,三次元動作解析装置VICON 612(VICON PEAK社製)を用いてサンプリング周波数120Hzで計測した.また床反力計(AMTI JAPAN社製)を用いて足尖が接地するタイミングを確認した.各標点の座標データをPC法演算プログラムで演算処理を行い,膝関節屈曲角度,内・外反角度,脛骨回旋角度,大腿骨に対する脛骨前後移動量を算出した.三次元動作計測と同日に大腿直筋,大腿二頭筋,半膜様筋の筋硬度を測定した.先行研究の手法に則り体温と月経の記録から低温期と高温期に分け,さらにそれぞれを1/2ずつにして月経期,排卵期,黄体前期,黄体後期の4期間に分けた.各期間のデータの比較には反復測定による分散分析を,男女の比較にはT検定を用い,それぞれ危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設の研究倫理審査委員会の承認を得ている.被験者には事前に書面と口頭で説明を行い研究参加の同意署名を得て実施した.【結果】  着地直後,全被験者において膝関節屈曲・外反・大腿骨に対する脛骨の内旋が起こった.よって,最大内旋角度,最大外反角度,脛骨最大前方変位量について比較した.内旋角度は黄体前期が他の期と比べて有意に大きく,黄体前期をピークとして月経期まで増加傾向であった.また男性の最大内旋角度より有意に大きくなった.男性は12週間で変化はみられなかった.外反角度については4期間で変化はなかったがすべての期で男性よりも大きな値となった.脛骨前方変位量は黄体前期が他の時期と比較して有意に大きくなった.筋硬度については女性の大腿直筋・大腿二頭筋は黄体前期と後期が月経期・排卵期と比較して有意に高い値を示した.半膜様筋は,統計的有意差は認められなかった.男性は12週間で変動はみられなかった.【考察】 黄体前期には脛骨の内旋角度と最大前方変位量が増大した.先行研究にてヒトACLではエストロゲン濃度の上昇に伴い線維増殖や主要な構成要素であるTypeIコラーゲンの代謝が減少し弛緩性が増加すること,濃度上昇から弛緩性が変動するまでに3日程度のTime-delay(TD)があることが報告されている.エストロゲン濃度は排卵期にもっとも高くなる.本研究でみられた黄体前期の内旋角度や脛骨移動量の変化は,このTDにあてはまるものと考えられる.また血中エストロゲン濃度は黄体後期にも再び上昇するためTDは月経期まで持続し,粗になったACLの構造が回復するまで損傷リスクが高い状態であるといえる.ACLは膝関節の前方剪断と脛骨内旋を制動する第一義的な組織であり,弛緩したことで前方変位量と内旋角度が増加したものと考えた.さらに,黄体前期と後期には大腿直筋と大腿二頭筋の筋硬度が増加した.筋硬度はγ運動ニューロンと交感神経によって制御されている.交感神経は黄体前期に活発になるとされており,筋硬度の増加は交感神経の働きによるものと推察した.そしてこの筋硬度の上昇はACLの構造が粗になる黄体期に,筋によって膝関節の剛性を増し対応するためであると考えられた.以上のことから月経期は黄体期と比較して脛骨の内旋・前方変位が減少するものの筋硬度の低下によって膝関節の動的安定性が得られにくい時期であることが示唆され,ここに月経随伴症状が加わることでACL損傷リスクが高まると結論付けた【理学療法学研究としての意義】  本研究結果は女性のACL損傷予防ための有益な知見になるものと考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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