抄録
【はじめに】住宅改善は複数の専門職が各々の専門性を発揮しながら,支援を行う必要がある.このような住宅改善は理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の約7割が介入経験を有する業務となっている.ただし,介入時のPT・OTの知識や技術に差があることも報告されている.【目的】本報告はPT・OTに対する全国規模の調査から住宅改善の経験数によって生じる介入時の相違を明らかにすることである.【方法】対象は日本理学療法士協会及び日本作業療法士協会の各名簿(09年度)に掲載されていた中から,自宅会員を除いて無作為に抽出したPT3,795人,OT2,094人である.調査は質問紙によるアンケートで,調査票は郵送にて配布,回収した.有効回収数はPT1,529人(回収率40.3%),OT785人(同率37.5%)であった.調査期間は2010年8月初めから2ヶ月である.調査結果は住宅改善の介入経験があるPT・OT計1,693人(PT1,163人,OT530人)をその経験数によって下記の2群に分け,クロス集計により比較,分析した.【倫理的配慮・説明と同意】本調査の主旨に理解を得られた場合に調査票を返信して頂くことを記載した依頼文を調査票とともに配布した.また,本研究は和洋女子大学ヒトを対象とする生物学的研究・疫学的研究に関する倫理委員会から承認を受け実施した.【結果】(1)2009年度におけるPT・OTの住宅改善への平均介入件数は3.0件であった.これに対して,1年当たりの平均介入件数(PT・OTとして介入した過去の全数÷PT・OTとしての全経験年数)が3.0件以上のPT・OT(PT296人,OT172人)を多経験群(468人),同件数が3.0件未満のPT・OT(PT782人,OT310人)を少経験群(1,092人)とした.(2)両群の勤務機関として最も割合が高いのは「病院」(多経験群78.6%,少経験群67.5%)で,次いで「老健」(前者6.8%,後者14.4%)であった.(3)日常業務における主対象は多経験群では「回復期患者」の割合(多経験群46.2%,少経験群17.8%)が最も高く,少経験群では「維持期患者」(多経験群15.8%,少経験群29.7%)と「急性期患者」(多経験群17.1%,少経験群28.8%)の割合が同水準で最も高かった.(4)介入した工事規模で最も割合が高いのは両群とも「住宅改造」(多経験群98.9%,少経験群97.3%)で,次いで「福祉用具設置」(多経験群97.9%,少経験群88.4%)であった.(5)住宅改善で介入した具体的な支援で最も割合が高いのは両群とも「工事前の動作・ADLの評価」(多経験群97.9%,少経験群91.1%)で,次いで「工事前の住宅の物理的環境の確認」(前者94.0%,後者84.4%),「工事前の相談」(前者90.0%,後者83.1%)であった.(6)住宅改善を実施した動作・ADLとして割合が高いのは両群とも「玄関の出入り」(多経験群97.9%,少経験群86.4%),「排泄」(前者95.7%,後者82.4%),「入浴」(前者95.7%,後者81.2%)であった.(7)住宅改善において連携した専門職として割合が高いのは両群とも「介護支援専門員」(多経験群90.8%,少経験群83.5%),「回答者とは異なるセラピスト」(前者89.3%,後者69.4%)であった.(8)住宅改善において苦慮・困難事項として割合が高いのは両群とも「自身の知識・技術不足」(多経験群78.6%,少経験群79.5%),「業務時間の不足」(前者60.5%,後者67.2%)であった.【考察】多経験群と少経験群では住宅改善への介入における様々な要因において同傾向を示すものが多い結果となった.ただし,苦慮・困難事項以外の項目はいずれの回答の割合も多経験群で高くなっていた.また,多経験群では回答が様々な項目に及ぶ傾向があるのに対して,少経験群では一部に偏位,集中する傾向にあった.つまり,多経験群は経験数も多く,かつ,広範な支援に介入して知識,技術を習得できることになる.これに対して少経験群では絶対的に介入件数が少ない状況にありながら,介入した場合においても一部の限定的な内容に留まっている.そのため,少経験群は多経験群に比べると住宅改善における知識や技術を習得することが困難な状況にあり,両群のこれらの格差が拡大する傾向にあることが示唆された.その結果として,上記のように少経験群では多経験群より苦慮・困難事項の割合が高いことになっている.このような多経験群と少経験群を生じさせる背景因子として,本報告では両群の日常の主対象者の相違がその一因として影響を及ぼす可能性が示唆されている.ただし,その理由やその他の要因については本報告では明らかになっていないため,今後の検討課題となった.【理学療法学研究としての意義】住宅改善の経験数によりPT・OTの介入実態を比較することによって今後の知識,技術習得の方法を検討する一助となっている.