抄録
【はじめに、目的】化膿性股関節炎後の手術療法による報告は多くされているが、保存療法及び理学療法による報告は我々が渉猟しえた中では確認できなかった。今回、化膿性股関節炎を発症し2年経過している症例に対し理学療法を施行し、歩行時痛の軽減がみられた為その治療ならびに経過を報告する。【方法】症例は60代女性。2年前に右化膿性股関節炎を発症し、他院にて療養後2ヶ月で退院となった。当時から疼痛と重度の可動域制限があったが、片松葉杖にて生活していた。最近になり疼痛が増悪し理学療法開始となった。X-P上骨頭は1/2程度融解しており関節破壊は著明であった。血液データは1年ほど前から安定しており炎症の再燃はみられていない。初期理学療法評価では、関節可動域はpassiveで右股関節屈曲40°、伸展-20°、外転0°、内転5°と強い制限があった。筋力は骨盤による代償が強く、全可動域での運動が行えなかった為、著明な筋力低下があると考える。脚長差は患側の棘果長に2cmの短縮が認められた。圧痛は腸腰筋、中殿筋に強く認められ、その他にも恥骨筋、長内転筋、梨状筋にも認められた。運動時痛は、股関節屈曲と伸展、外転、内転時に股関節前面と外側に認められた。歩行時痛は立脚中期~立脚後期の股関節伸展時に股関節前面部痛が出現し、立脚中期以降の荷重時期に股関節外側部に疼痛が認められた。歩行中、右股関節は屈曲・内転・内旋位を常に呈しており、立脚後期における股関節伸展を体幹屈曲により代償し、片松葉杖にて荷重を避け寄りかかる様に歩行している。【倫理的配慮、説明と同意】患者様には本発表の主旨を十分に説明し、同意を得ている。【結果】理学療法介入初期では、関節保護と疼痛性のスパズムを改善する為に片松葉杖から両松葉杖に変更し、疼痛の原因と考えられた腸腰筋の筋スパズム改善を目的に徒手的にリラクゼーションを行った。両松葉杖に変更したことで歩行時痛は減少した。1ヶ月経過後には、腸腰筋の筋スパズムが減少し、股関節伸展可動域-15°まで改善した。それに伴い歩行時痛も減少していった。同アプローチを継続し2ヶ月後には股関節前面の疼痛はさらに減少し、股関節外側部痛が主となった。その原因を中殿筋のスパズムと考え、徒手的に筋リラクゼーションを行い筋スパズムの改善を図った。また自動介助運動にて中殿筋の筋収縮を促していった。4ヶ月経過後には歩行時の股関節伸展や内転位には大きな変化は見られず歩容の変化は乏しかったが、疼痛はさらに減少した。【考察】本症例は化膿性股関節炎によって強い疼痛が生じ股関節を安定させる為屈曲拘縮を引き起こし、また関節破壊により脚長差が生じ、それを補うように股関節内転拘縮を引き起こした。その状態での歩行により、立脚中期以降での股関節前面・外側部の疼痛が増悪した症例である。拘縮により関節は安定し疼痛が出現しにくい状態であると考え、強引な可動域の拡大は疼痛を増悪させてしまうと考えた。その為治療の目的は、関節可動域の向上ではなく腸腰筋・中殿筋の筋緊張抑制による除痛を主として行った。腸腰筋・中殿筋は、立脚後期における股関節伸展や、内転位での歩行による骨頭の外上方へのストレスによって伸張ストレスを受けスパズムが生じたと考える。スパズムによって筋内圧が上昇することで疼痛が出現したと考えた。その為、徒手的に各筋のリラクゼーションを行い筋内圧の低下を図り、また中殿筋の促通によって立脚期における筋性の安定性向上を図った。その結果、可動域の著明な改善や跛行の大きな改善は見られなかったが、歩行時の疼痛は軽減し、片松葉杖歩行においても著明な疼痛は認められなくなった。【理学療法学研究としての意義】化膿性股関節炎の保存例という稀な症例を経験した。chemical factorによる疼痛に留意しながら、股関節前面の柔軟性の保持、内転拘縮の予防によりmechanicalな疼痛を予防できると考える。