理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-25
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ポスター発表
角度計を用いた関節可動域測定の記録は1 度刻みか5 度刻みか
百瀬 公人若田 真実大羽 明美佐々木 涼子宮田 美穂稲葉 絵里子宮下 貴司齋門 良紀谷川 浩隆
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抄録

【はじめに、目的】関節可動域測定は理学療法士にとって最も重要な評価方法の一つである。日本における標準的な測定法は、1995 年に改定された日本整形外科学会身体障害委員会および日本リハビリテーション医学会評価基準委員会が定めた関節可動域ならびに測定法である。この測定法において計測は「通常は5 度刻み」と記載されており、測定精度を5 度としている。また、理学療法教育に用いられる評価法の教科書には測定精度について言及しているものと無いものがある。測定精度を記載している教科書は全て5 度としているが、その論理的根拠は示されていない。関節可動域測定の相対信頼性についての報告は多いが、1 度と5 度の測定精度の違いについて明らかにした研究は無い。そこで、この研究の目的は関節可動域測定の測定精度が1 度と5 度ではどちらを用いるべきなのかを検者内信頼性と最小可検変化量を用いて明らかにすることである。【方法】対象は患者28 名と健常者5 名である。患者の疾患は、廃用症候群、脳梗塞、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、心不全、慢性閉塞性肺疾患、腱板断裂術後、大腿骨頚部骨折、前腕骨折などである。除外基準としては、膝に痛みのある者、膝の手術を受けたものとした。平均年齢は72.5 ± 21.5 歳、男性19 名、女性14 名である。測定関節は左右の膝関節とし、計66 膝を対象とした。検者は臨床経験8 年目の理学療法士1 名である。測定は背臥位で東大式角度計を用い、膝関節の屈曲と伸展の他動的関節可動域を日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の定めた方法により計測した。計測は2 回実施し、1 回目の計測結果が2 回目の計測結果に影響を及ぼさないように、角度計の測定値の読み取りは他の理学療法士が行った。測定精度は1 度とし、計測した後その値を測定精度5 度に変換した。変換方法は0、1、2 度が0 度、3、4、5、6、7 度が5 度、8、9 度が10 度、とした。統計は検者内信頼性を級内相関係数ICC(1.1)で算出した。また、誤差の種類はBland-Altman分析を用いて検定し、系統誤差(固定誤差及び比例誤差)の有無を明らかにした。また、誤差の範囲を最小可検変化量として算出した。有意水準は5% を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は安曇総合病院倫理審査委員会の承認を得た。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し参加の同意を得た。【結果】膝関節屈曲角度の測定精度1 度の中央値、最大値、最小値は1 回目が141 度、162 度、49 度、2 回目が140 度、161 度、126度、測定精度5 度の1 回目が140 度、160 度、50 度、2 回目が140 度、160 度、45 度であった。膝関節伸展角度の測定精度1 度の中央値、最大値、最小値は1 回目が-10 度、19 度、-30 度、2 回目が-10 度、19 度、-34 度、測定精度5 度の1 回目が-10 度、20 度、-30 度、2 回目が-10 度、20 度、-35 度であった。ICC(1.1)の結果は、屈曲角度の測定精度1 度が0.995(標準誤差2.0 度)、測定精度5 度が0.991(標準誤差2.0 度)であり、伸展角度の測定精度1 度が0.967(標準誤差0.7 度)、測定精度5 度が0.943(標準誤差0.7 度)であった。また全てのICCは有意であった。Bland-Altman分析より屈曲角度の測定精度1 度と5 度、伸展角度の測定精度1度と5度のいずれも系統誤差を認めなかった。したがって、最小可検変化量は、屈曲角度の測定精度1度が4.6度、5 度が6.3 度、伸展角度の測定精度1 度が4.1 度、5 度が5.5 度であった。【考察】ICCおよび最小可検変化量の違いはわずかであるが、可動域の変化の検知は測定精度5 度より1 度の方が鋭敏であると考えられる。膝関節屈曲可動域を測定精度1 度で測定し91 度であった患者が治療後6 度変化し97 度になったとする。この変化は測定精度1 度の最小可検変化量の4.6 度以上であり、この場合治療効果があったと考えられる。一方測定精度5 度に変換すると、治療前は90 度、治療後は95 度である。この変化は測定精度5 度の最小可検変化量の6.3 度以下であり、偶然誤差範囲内である。したがって、この場合治療効果があると明確に判定できない事になる。このように、測定精度5 度の場合は10 度以上の変化を示さなければ、治療効果の影響と考えることができない。この事から考えると治療効果を鋭敏に測定できない場合がある測定精度5 度の計測方法は用いるべきではないと思われる。また、全ての理学療法士は関節可動域測定の自分自身の最小可検変化量を知ることと、その最小可検変化量を小さくする練習が必要であると思われる。今回の研究結果では、最小可検変化量に対する臨床経験の影響や膝関節以外の最小可検変化量は不明なので、今後明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】理学療法士にとって最も重要な評価法の一つである関節可動域測定の測定精度を明らかにすることは、理学療法の評価及び治療の向上に役に立つと考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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