理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-26
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ポスター発表
中高齢者の筋力感覚が姿勢制御能力および動作能力に及ぼす影響
福元 喜啓池添 冬芽中村 雅俊塚越 累山田 陽介木村 みさか市橋 則明
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キーワード: 筋力感覚, 高齢者, 姿勢制御
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抄録

【はじめに,目的】一定の発揮筋力値を正確に再現する能力は筋力感覚(Force sense, 以下FS)と呼ばれ,関節安定性に寄与する固有感覚のひとつとして近年,注目されてきている(Docherty et al, 2004)。先行研究では,FSは筋疲労や関節不安定性により低下することが報告されている(Vuillerme and Boisgonitier 2008, Docherty et al.2006)。良好なFSによる関節安定性は運動中の身体安定性に寄与し,姿勢制御能力や動作能力にも好影響を及ぼしていると推察されるが,これまでFS と姿勢制御能力・動作能力との関連を調べた報告は見当たらない。本研究の目的は,中高齢者のFSを評価し,加齢変化および姿勢制御能力・動作能力との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は,地域在住の健常な中高齢女性42 名(平均年齢72.2 ± 7.7 歳)とした。Strain gauge system(DKH社製)を使用し,右側の大腿四頭筋の最大筋力とFSを測定した。測定肢位は端坐位とし,下腿遠位部に張力計測用ベルトを巻いて膝関節屈曲90°位の等尺性収縮にて測定を行った。最大筋力は2 回測定し,大きい値(Nm)をデータ解析に使用した。FS の目標値には,最大筋力の10%と30%の値を用いた。FSの練習課題として,ディスプレイ上に筋力目標値と実際の発揮値をリアルタイム表示し,両者を常に一致させるように対象者に指示した。5 秒間の練習を5 回実施した後,測定課題として,ディスプレイを隠した状態で目標値の筋力発揮を再現させた。5 秒間の計測を行い,実測値と目標値との絶対誤差の平均値を算出し,最大筋力値で正規化(%)した。測定は3 回行い,最も小さい値をFSの指標としてデータ解析に使用した。10%と30%のFS測定順序はランダムとした。姿勢制御能力の評価として片脚立位保持時間(OLS;秒),Functional Reach test(FR;cm), 動作能力の評価として,3 分間歩行距離(3MWT;m), Timed Up and Go test(TUG;秒),垂直跳び(VJI;kgm)を実施した。統計学的検定として,最大筋力,FSと年齢,姿勢制御能力,動作能力との関連を,Spearman順位相関分析を用いて調べた。統計の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,測定機関の倫理委員会の承認を得て行われた。すべての対象者に研究内容に関する説明を行い,書面にて同意を得てから測定を実施した。【結果】FSは,10%では3.46 ± 2.34%,30%では3.88 ± 3.26%であった。最大筋力は年齢(r=−0.41,p<0.01),TUG(r=−0.39,p<0.05),VJI(r=0.43,p<0.01)との間にのみ有意な相関を示した。10%FSは,年齢およびいずれの姿勢制御能力・動作能力とも有意な相関を示さなかった。一方,30%FSはOLS(r=−0.38,p<0.05),3MWT(r=−0.35,p<0.05),TUG(r=0.37,p<0.05)と有意な相関を示したが,年齢とは有意な相関を示さなかった。また,10%FSと30%FSとの間には有意な相関が認められなかった。【考察】本研究の結果より,最大筋力は中高齢期においても加齢変化が進行するが,FSは中高齢期においては加齢変化が生じるわけではないことが示唆された。また最大筋力は動作能力項目とは相関が認められたが姿勢制御能力項目とは相関が認められなかったのに対して,30%FSは動作能力のみならずOLSとも相関が認められた。このことは,中高齢者におけるバランス保持には筋力値の大きさよりも,むしろ動作安定性のための適切な筋力発揮に寄与するFSが重要であることを表していると考えられる。一方,10%FSはどの姿勢制御能力や動作能力とも相関を示さず,また10%FSと30%FSとの間にも相関が認められなかった。このことより,FSであっても目標筋力値の大きさにより異なる特徴を有し,小さい筋力値のFSよりも30%程度のFSのほうが中高齢者の姿勢制御能力や動作能力への影響が大きいことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】中高齢者の骨格筋機能の評価としてこれまで主に最大筋力が用いられてきたが,本研究は中高齢者の姿勢制御能力や動作能力に影響を与えうる筋機能要因のひとつとしてFSも評価することの重要性を示した。さらに中高齢者の姿勢制御能力・動作能力向上を目指した運動療法の開発のための一助にもなると考えられ,本研究の理学療法学研究としての意義は大きい。

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© 2013 日本理学療法士協会
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