理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-01
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ポスター発表
腹部術後における起き上がり動作時の術創部疼痛抑制-呼吸運動の効果
腎生検後と鼠径ヘルニア修復術後について
坂上 尚穗岩坂 憂児中江 秀幸相馬 正之武田 賢二山崎 健太郎
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抄録

【はじめに】 腹部臓器の切除や摘出ならびに移植など腹部術後の症例において,術直後は術創部の疼痛を訴えることが多く,咳,くしゃみ,喀痰など腹筋群の収縮を起こす動作では術創部の疼痛が増強する。その最中,主治医からの安静解除指示となり離床を促され,自力での起き上がり動作が強要される場面が多々あり疼痛ストレスは多大となる。腎生検と鼠径ヘルニア修復術など症例においても腹部術創部が3~5cm程度ではあるが,同様に術創部の疼痛を訴え,起き上がり動作等のADL上で疼痛が増強している。そこで我々は第47回日本理学療法学術大会にて腎生検後の症例24名に対し,起き上がり動作時の術創部の疼痛抑制を目的に,起き上がり動作時に呼吸(主に呼気)運動を取り入れて,その効果を調査し疼痛が有意に減少したことを報告した。 今回,腎生検後の症例を増やし,更に鼠径ヘルニア修復術後症例を加えて腹部術後における起き上がり動作時の術創部疼痛抑制に,呼吸(主に呼気)運動の効果を再調査したので報告する。【方法】 対象は腎生検後において術創部の疼痛を訴える78名(男性50名, 女性28名, 平均年齢47.2±19.4歳)であり,鼠径ヘルニア修復術において術創部の疼痛を訴える11名(男性10名, 女性1名,平均年齢68.6±15.0歳)であった。調査は手術の翌日または数日以内に主治医から安静解除の指示が出された後に実施した。方法として,対象にベッド上にて背臥位から端座位までの起き上がり動作を行なわせ,その際の術創部の疼痛について視覚的アナログ目盛り法(以下VAS)を用いて計測した。休憩後,なるべく同様の動作方法で呼吸(主に呼気)運動をしながら起き上がり動作を行うよう指示して,術創部の疼痛を同様にVASで計測した。起き上がり動作の際には側臥位となり,上肢はベッド柵を使用し支持することとした。統計処理にはt-検定を行い,有意水準を5%とした。【説明と同意】 本研究は仙台社会保険病院倫理審査委員会で承認され,対象にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の目的と内容および自由参加の旨を口頭および書面にて説明し,同意の署名を得た。また対象患者の主治医にも事前に許可を得て調査した。【結果】 腎生検後症例および鼠径ヘルニア修復術後症例の双方において、起き上がり動作における術創部の疼痛は呼吸運動が無い場合よりも呼吸運動がある場合において有意に減少した(p<0.01)。【考察】 通常の起き上がり動作において体幹の屈曲運動の際,腹筋群の収縮が求められる。腎生検および鼠径ヘルニア修復術とも腹筋群が切開され筋の侵襲を受けており,術創部の疼痛を引き起こすことが予想される。今回この2つの術式において,起き上がり動作に,主として呼気運動を促すことで腹腔内量を減少させ,それら腹筋群を弛緩させ張力を減少させたことが術創部の疼痛を抑制した要因と考えられた。しかし起き上がり動作の遂行において,呼気運動により腹筋群の張力を発揮困難な状況となり体幹を起こす力が減少することが考えられるが,その代わりにベッド柵を使用して上肢の支持量が増大させていたのではないかと思われる。 通常術後において安静解除直後に理学療法士が関わるのは少なく,その際に医師や看護師から術患者へアドバイスがあると術患者の起き上がり動作における術創部の疼痛が軽減され,ストレスの軽減が期待できる。今後更に胃・肝臓の手術や帝王切開など腹部正中切開する術後において,起き上がり動作時に呼吸運動を促すことで術創部の疼痛の軽減が図られることが期待でき,同様の調査が求められる。【理学療法学研究としての意義】 腹部術後の症例の起き上がり動作時に呼吸運動を取り入れることにより,術創部の疼痛が軽減できれば,離床が進み活動意欲の向上および廃用症候群の予防に貢献でき,早期退院へ寄与できる可能性がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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