理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-01
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ポスター発表
発声時の声の高さが側腹筋筋厚に与える影響
―超音波診断装置を用いた検証―
竹原 圭祐濱田 大介土川 寛貴
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抄録

【はじめに、目的】 側腹筋は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋から構成され、脊椎の安定性に寄与している。これらの筋の運動制御と耐性の向上のためのエクササイズを教えることは、腰痛予防とリハビリテーションにとって重要である。実際に、臨床においてトレーニング対象となることが多い筋であるが、これらの筋に対するエクササイズは高齢者に対して実施する際には負荷の調整が難しい場合や、複雑な内容となる場合がある。また、運動方法を患者に理解させても、患者自身が容易に行えるような方法でなければ、継続して運動を行うことは困難である。 側腹筋は発声においても重要な役割を担っており、ある音程を一定の強さで発する場合、呼気筋である側腹筋の収縮が必要となる。近年、呼吸を利用した体幹筋のトレーニングについての報告は多いが、発声と体幹筋との関係についての報告は少ない。 今回、発声時の声の高さが側腹筋の筋厚にどのように影響を与えるのか超音波診断装置を用いて検証した。【方法】 対象は腰痛の既往のない健常男性4名(年齢平均25歳±4.2)で、側腹筋の筋厚は超音波診断装置(GE Healthcare社製LOGIQe)およびリニアプローブ(12MHz)を用い、検者間での差が生じないように、検者は1名とした。被験者をベッド上背臥位とし、通常の高さでの発声(以下通常時)、出来るだけ高音での発声(以下高音)、出来るだけ低音(以下低音)での発声をなるべく一定の声の大きさを保つように行わせ、筋厚(外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)を測定、比較した。計測する側腹筋の左右の選択、発声の順序はクジにて決定し、測定部位は腸骨稜と肋骨下縁の間で、床と平行な直線上とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者に対し、実験の目的および方法を十分に説明し、承諾を得た上で検証を行った。【結果】1.外腹斜筋通常時の筋厚は7.0±1.3mm、低音の筋厚は8.6±1.4mm(変化率128.3±21.5%)、高音の筋厚は8.4±1.8mm(変化率119.2±11.5%)であった。2.内腹斜筋通常時の筋厚は8.8±1.7mm、低音の筋厚は8.9±0.8mm(変化率103.2±13.3%)、高音の筋厚は11.0±2.7mm(変化率127.2±24.5%)であった。3.腹横筋通常時の筋厚は3.3±1.1mm、低音の筋厚は4.5±1.2mm(変化率148.8±73.4%)、高音の筋厚は5.4±1.0mm(変化率178.8±73.1%)であった。【考察】 今回の検証の結果、低音、高音ともに側腹筋の収縮が通常時と比較し向上した。特に、内腹斜筋、腹横筋に関しては、高い声を発声した時に筋厚が厚くなるという結果となった。 人間の発音や発声は、呼吸器系による空気が声帯ヒダの間を通る時に生じる声帯ヒダの振動によって生じる。音の高さと量は空気が声帯ヒダを通るときの速度と圧力に左右され、体幹筋の活動に左右される。音の高さは、内喉頭筋群により声帯ヒダが緊張し、声門裂が狭くなることによって生じる。また、呼気が声帯ヒダを通過する際の圧力もまた振動のパターンを変化させることになり音の高さに影響し、高い声を出すためには、呼気の圧力を増加させる必要がある。 つまり、高い声を出すためには、より呼気筋の収縮が必要となるため、低音よりも高音のほうが、側腹筋の収縮が強く生じたのではないかと考えられる。 側腹筋の収縮は、腹腔内圧を上昇させ、脊椎椎間の配列を整えるように作用する。配列が整うと、関節突起間関節の剪断力を最小限に抑えることが出来るため、腰椎の前後動揺が減少し、腰椎部での安定性が向上すると考えられている。 今回の検証においては、対象数の不足により、統計学的手法による検定が行えなかったことと、一般的な体幹筋トレーニング時の筋厚との比較を計測していないため、高声の発声のみで十分な体幹筋トレーニングと判断できるのか不明である。今後、問題点を修正し、検証を続けていく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 今回、発声時の声の高さが側腹筋の筋厚に与える影響について、超音波診断装置を用いて検証した。体幹の安定性に対する運動療法については、多くの報告がされているが、統一した見解は得られておらず、不明な点も多い。そこで、高い声を出すことで側腹筋が収縮し、体幹の安定性が向上することが示されれば、負荷も少なく、患者自身が継続して行いやすい運動方法の一つとなるのではないかと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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