理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-04
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一般口述発表
人工膝関節全置換術後の屈曲可動域は深部静脈血栓症の有無が関与するか?
井上 彰渡部 裕之熊谷 雄介小森 直樹長谷川 静香和田 元恵夏井 可菜子水谷 羊一片岡 洋一皆川 洋至田澤 浩木島 泰明
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抄録

【はじめに、目的】人工膝関節全置換術Total Knee Arthroplasty(以下TKA)における患者満足度に影響するのは可動域といわれている。また、当院のような有床診療所では早期退院、すなわち早期の目標可動域獲得は必須である。我々は昨年の本学会において、退院時目標屈曲角度である140°を達成するためには術後1週間で130°の屈曲角度を獲得する必要があると報告した。そのためには術直後から下肢の腫脹を最小限に抑えることが必要とされる。しかし、術後深部静脈血栓症Deep Venous Thrombosis(以下DVT)を生じた患者の多くは下肢全体が腫脹し、可動域exの妨げとなっている印象がある。本研究の目的は、DVTの有無が術後屈曲可動域に影響を及ぼすか否かを明らかにすることである。【方法】対象は、当院で2011年7月~2012年6月までにTKAを受けた102名157膝、平均年齢74.1歳(64~88歳)であった。術後のエコー検査によって、対象をDVTあり群とDVTなし群に別け両群の術後屈曲可動域の推移を比較した。術後屈曲可動域を3日目、5日目、7日目、退院時で評価した。統計処理にはSPBSを使用し、対応のないt検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象患者には、測定において十分な説明を行った。【結果】術後3日目の屈曲角度はDVTあり群102.2±10.9°、DVTなし群109.1±9.9°(p<0.01)。術後5日目はDVTあり群112.2±10.2°、DVTなし群119.1±9.6°(p<0.01)。術後7日目はDVTあり群121.1±10.4°、DVTなし群128.4±10.4°(p<0.01)。退院時はDVTあり群138.1±7.9°、DVTなし群141.8±7.9°(p<0.05)であり全ての項目でDVTなし群の屈曲角度が有意に大きかった。【考察】本研究によりTKA術後の屈曲可動域にDVTの有無が関与していることが明らかとなった。術後の活動量低下によりDVTを合併した患者は、下肢全体の腫脹によって、早期からの可動域exが十分に行えずに可動域獲得が遅れる。また、DVTがあると水中exなどの全身の循環を強く促すようなリハビリは行えない。良好な屈曲可動性を確保するため、DVTの予防が重要であり、早期離床、腫脹の管理、ベッドサイドでの自主トレーニングを徹底することが必要である。【理学療法学研究としての意義】術後早期から屈曲可動域が悪い場合、DVTを合併している可能性があるため、そのリスクを考慮しながらのリハビリが行える。またDVTの検査結果で退院時までの可動域の回復度合いが予想できるため、個々に合わせたリハビリ内容が提供できる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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