理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-04
会議情報

一般口述発表
人工膝関節全置換術施行前の身体機能が術後の歩行および入院期間に及す影響
眞田 祐太朗椎木 孝幸今高 康詞西本 好輝森本 毅行岡 正雄
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】 人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後の在院日数は,診断群分類別包括評価(DPC/PDPS)の導入が国の政策として推進されてから短縮傾向にある。当院においても2009年4月よりDPC請求対象病院となり,術後早期に歩行などの日常生活動作を獲得することが求められている。本研究の目的は,人工膝関節全置換術施行前の身体機能が術後の歩行および入院期間に及す影響について検討することとした。【方法】 2012年1月から8月までに,当院にてTKAを施行された31例31膝のうち,関節リウマチを除く,一次性内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)と診断された16例16膝(女性15例・男性1例,年齢72.9±6.4歳,身長152.1±0.1cm,体重65.8±10.8kg)を対象とした。術前因子は,1)日整会膝関節機能評価(以下,JOA score),2)Timed Up and Go test(以下,TUG),3)VAS(安静時・歩行時),4)両側膝関節屈曲・伸展可動域(以下,膝屈曲・伸展ROM),5)両側大腿脛骨角(以下,FTA),6)Body Mass Index(以下,BMI),7)年齢とし,術後因子は,8)歩行器歩行獲得期間,9)自立歩行獲得期間,10)入院期間として,術前因子と術後因子との関連性を検討した。TUGは椅子から立ち上がり,3mを最大速度で歩いたのち,目印を回り元の椅子に着座するまでの時間を計測した。統計処理にはPeasonの相関係数を用いて,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の主旨・目的を口頭にて説明し同意を得た。【結果】 術前因子は,1)JOA score(61.9±12.8),2)TUG(12.5±4.3秒)3)VAS(安静時:2.6±2.3cm・歩行時:6.2±2.0cm),4)膝ROM(非術側:屈曲123.8±15.0°/伸展-5.6±8.5°,術側:屈曲122.2±15.1°/伸展-8.8±8.5°),5)FTA(非術側:180.4±4.0°・術側:185.4±4.8°),6)BMI(28.4±3.8),7)年齢(72.9±6.4歳)であった。術後因子は,歩行器歩行獲得期間(7.4±2.0日),自立歩行獲得期間(16.0±4.8日),入院期間(31.3±7.9日)であった。術前因子と術後因子との関連性について統計処理を行った結果,術後歩行器歩行獲得期間はBMI(r=0.57)と非術側FTA(r=0.66)との間に有意な相関を認め,TUG(r=0.35)を含めた他の術前因子との間に有意な相関は認められなかった。術後自立歩行獲得期間はTUG(r=0.60)にのみ有意な相関を認めた。入院期間は安静時VAS(r=0.55)とTUG(r=0.56)との間に有意な相関を認め,他の術前因子との間に有意な相関は認められなかった。【考察】 TUGは歩行の評価のみならず,立ち上がりや方向転換といった実際の日常生活場面に近い条件下における動的バランスを評価する指標として用いられている。今回の結果より,術前TUGと自立歩行獲得期間および入院期間に相関が認められたことから,TUGを用いて術前の運動機能を把握することで,自立歩行獲得期間および入院期間の予測がなされる可能性が示唆された。一方で歩行器歩行獲得期間とTUGには有意な相関は認められず,BMIおよび非術側FTAとの間に有意な相関が認められた。歩行器歩行が獲得された術後約1週においては,術側下肢の運動機能は十分には回復されていないため,非術側下肢の運動機能によって獲得した可能性が高いと考えられ,非術側下肢のアライメントや肥満度を表す体格指数であるBMIが影響したと推察される。今回,筋力については調査していないが,今後は片脚起立などの簡易的な下肢機能評価も含めて,歩行や入院期間に及ぼす影響について調査する必要性があると考える。また術前TUGに影響する身体機能を明らかにし,術後歩行能力の回復が遅延すると予測される症例に対して介入し,効果検証もしていきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】 TKA術後早期の歩行能力および入院期間を,TUGを始めとした術前の身体機能から予測できる可能性が示唆された。本研究結果は,在院日数の短縮を求められる現在の医療制度のもと,術前の身体機能から症例に応じた適切な術後在院日数を把握し,個別性に配慮した理学療法を展開するための一根拠となると考えられる。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top