理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-05
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一般口述発表
垂直跳躍における理論値を用いた効率性の検討 足位の変化に着目して
廣田 正和土居 健次郎大森 茂樹河原 常郎倉林 準門馬 博八並 光信
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キーワード: 理論値, 垂直跳躍, 足位
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抄録

【はじめに】垂直方向への跳躍高はさまざまなスポーツに要求される能力である。垂直跳躍動作は床反力を利用し身体重心を垂直方向に動かす力学的エネルギーを要した。身体を一つの剛体とみなした場合、滞空時間から垂直高の理論値を算出できた。この理論値はその跳躍高に対し最も効率的な跳躍動作における跳躍高の結果であると考えた。本研究は床反力計と三次元動作解析装置を用い、足位の変化が理論値と実測値に与える影響を検討した。【方法】対象は健常男性6 名(平均年齢23.6 ± 1.7 歳)とした。対象者は裸足となり、両足を左右の肩峰間の距離に広げ、両手を骨盤部におき反動をつけずに鉛直方向へ跳躍を行った。動作開始前の股関節を70°屈曲位と定めた。また足部を20°内転位、10°外転位、30°外転位に変化させ開始肢位を3 条件設定した。それぞれの開始肢位をtoe-in、neutral、toe-outと規定した。膝関節の角度は対象者の任意の角度とした。動作解析は床反力計OR6-7(1 枚,1000Hz)と三次元動作解析装置VICON MX-3(カメラ7 台、200Hz)を同期・同調させた三次元動作解析システムを用いた。マーカを15 体節に35 個貼付した。跳躍高の理論値は滞空時間を用い(滞空時間)2 × 重力加速度/8 より算出した。実測値は離地直前から最高跳躍点までのcenter of massのZ成分の変位量をもとに算出した。実測値を理論値で標準化した。また、左右前後方向の動揺の計測にcenter of massのX成分、Y成分の変位量を用いた。【説明と同意】対象者全員に対し、ヘルシンキ宣言をもとに本研究の意義・目的・方法を口頭および書面で説明し、同意を得た者のみを対象に計測を行った。また対象者は研究への参加の同意いつでも撤回する権利を有し、それによる不利益は決して生じないことを説明した。【結果】実測値での跳躍高はneutralで302.4 ± 23.8mm、toe-outで284.5 ± 49.9mm、toe-inで277.3 ± 57.6mmであった。理論値に対する実測値はneutralにて92.2 ± 2.6%、toe-outにて90.9 ± 4.1%、toe-inにて94.0 ± 3.5%であった。全ての開始肢位からの跳躍にて理論値を超える値はみられなかった。開始肢位から最高跳躍点までのcenter of massのX成分の変位量はneutral:15.4 ± 23.3mm,toe-out:5.5 ± 21.3mm,toe-in:18.9 ± 41.2mmであった。Y成分の変位量はneutral:5.2 ± 9.5mm,toe-out:11.8 ± 10.8mm,toe-in:-2.6 ± 11.8mmであった。各条件とも最大跳躍高では前後左右方向への変位が認められた。【考察】本研究の結果から、すべての跳躍で実測値が理論値よりも低値を示した。理論値は身体を一つの剛体としてとらえ、その剛体の持つ力学的エネルギーをもとに算出している。またその剛体が発揮する仕事量を垂直方向に限定している。本結果のように垂直方向への跳躍に対し前後左右方向への変位が認められた場合、垂直方向以外の仕事量を発揮する。垂直跳躍において実測値が理論値に近い値を持つとき効率的な跳躍を遂行することができると推察した。身体重心の前後左右動揺は力の垂直方向への伝達を阻害する。足位を変化させた垂直方向への跳躍課題に対し、toe-inが最も理論値に近い値を示した。入谷らはtoe-in姿勢が中殿筋の活動を高めたと報告した。そのため、垂直方向への跳躍が求められる動作においてはtoe-inが効率的に動作を遂行することができると考えられた。【理学療法学研究としての意義】跳躍高を指標として跳躍動作について論じた研究が多い中で、本研究はその跳躍高における効率性に重きを置いた。効率性はその動作の持続性や確度に影響を及ぼす。よって、持続した跳躍高を求められるバレーやバドミントンなどのスポーツ現場において足位からの介入が有効であることが示唆された。今後、理論値についてさまざまな観点からの検証が必要であった。さらに、垂直跳躍にとどまらず様々な動作に対して理論値からみた効率性を論じていきたいと考えた。

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© 2013 日本理学療法士協会
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