理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0011
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口述
脳卒中片麻痺患者における咳嗽時の体幹筋活動
―麻痺側・非麻痺側の比較―
玉村 悠介林 義孝新田 勉松浦 道子吉川 創糸田 昌隆田中 信之
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キーワード: 咳嗽, 脳卒中, 筋活動
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抄録

【はじめに,目的】高齢者において誤嚥による肺炎は,リハビリテーション対象者を含め,生命維持に影響を与えることから,予防が極めて重要であり,その予防手段の1つに,気道の異物を除去する咳嗽がある。咳嗽のメカニズムは4相に分かれており,第1相は咳の誘発,第2相は深い吸気,声門の閉鎖,第3相で胸腔内圧を上昇させ,第4相で声門を開き肺内の空気を一気に呼出させる。第3~4相にかけて,体幹筋力が必要であり,先行研究でも効果的な咳嗽を行うためは体幹筋力が重要とされている。しかし,脳卒中片麻痺により,麻痺側体幹筋力の低下をきたす症例では,効果的な咳嗽が困難であると予測されている。そこで,脳卒中片麻痺患者が随意的な咳嗽を行った際の麻痺側,非麻痺側の体幹筋活動を計測し,これらを比較,検討することを目的とした。【方法】対象は,当院に入院中の脳卒中片麻痺患者10名(男性5名,女性5名),平均年齢は63.2±9.4歳であった。体幹筋活動の測定は,表面筋電図(ノラクソン社,マイオリサーチXP)を使用し,対象筋群は腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋とした。電極貼着位置は,腹直筋が臍の2cm外側,外腹斜筋が第8肋骨外側下,内腹斜筋が上前腸骨棘を結んだ線の約2cm下方とし,それぞれ筋線維走行に沿って貼着した。また,麻痺側,非麻痺側を比較できるよう,左右両側に貼着し計測した。測定肢位は車椅子座位及び椅子座位とし,最大吸気位から思いっきり咳嗽を行った際の筋活動を測定した。始めにMMT測定姿勢に準じた体幹屈曲で最大随意収縮を行い,その際の各筋活動の筋積分値を正規化のための基準値とした。そして,咳嗽時の筋活動を記録し,体幹屈曲時の筋活動に対する百分率(以下%iEMG)として評価を行った。麻痺側,非麻痺側の筋活動は対応のあるt検定を用いて比較し,各々の有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて紙面にて説明し,同意の署名を得た後に実施した。また,事前にわかくさ竜間リハビリテーション病院および武庫川女子大学大学院の倫理委員会の承認を得た。【結果】腹直筋の%iEMGは非麻痺側が14±0.06,麻痺側が14±0.04,外腹斜筋の%iEMGは非麻痺側が63±0.54,麻痺側が53±0.43,内腹斜筋の%iEMGは非麻痺側が30±0.14,麻痺側が22±0.11であった。t検定の結果,内腹斜筋において非麻痺側の筋活動が麻痺側に比べ有意に高かった(p<0.05)。【考察】咳嗽の第4相では,胸腔内圧が非常に高いレベルに達した後に横隔膜の弛緩と声門が突然に開き,呼気筋群の強い収縮によって,腹腔内圧が胸腔内圧よりも高くなるため,横隔膜は押し上げられ爆発的な呼気(咳嗽)が起こるとされており,咳嗽には腹筋群と横隔膜が交互にはたらくことが必要とされている。しかし,脳卒中片麻痺患者では,麻痺側横隔膜運動の低下や,腹筋群の低緊張が咳嗽力を低下させる要因と報告されている。また,脳卒中片麻痺患者では,体幹が麻痺側に傾斜した座位姿勢をとる症例が多く,左右非対称の胸郭アライメントが麻痺側腹筋群の筋長を変化させ,長さ-張力曲線の影響から麻痺側体幹筋活動を低下させることが推察される。咳嗽における筋活動について,先行研究より咳嗽時の腹筋群の活動として,腹直筋よりも内外腹斜筋の活動が高く,腹直筋の活動は低いと報告されている。今回の研究でも腹直筋が最も麻痺側,非麻痺側との差は少なく,内腹斜筋において有意な差が認められた。これらのことから,脳卒中片麻痺患者の咳嗽力の低下には,麻痺側内腹斜筋の筋活動の低下も要因となっている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果により,脳卒中片麻痺患者において麻痺側体幹筋活動の向上を図ることは,咳嗽力の向上につながり,誤嚥性肺炎の予防にも効果的である可能性が示唆された。今後は,従来の「息を吹く」などの呼吸筋トレーニングに加え,背臥位での体幹屈曲,回旋運動や寝返り動作練習など,麻痺側腹筋群の筋活動を向上させる運動療法の展開を図ることが必要と考える。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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