理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0045
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calf raiseにおける経時的な体幹および下肢関節角度の関係性
橋本 汐理国分 貴徳藤野 努西原 賢金村 尚彦
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抄録

【はじめに,目的】ヒトの立位姿勢制御は,理学療法領域では一般的に股関節戦略と足関節戦略の2つに大別される。しかし,実際に支持基底面内に重心を保持する際には,それら二つの関節に限らず,体幹を含めた多関節の協調的な運動が相互に行われることで制御されている。静止立位の制御に関する研究では,静止立位において足関節と股関節の角度変化には関係性がみられないが,両関節の角加速度において逆位相での制御関係がみられたとする報告があり,その制御のメカニズムが解明されつつある。しかし,臨床の場面で角加速度を視覚的に捉えることは困難であり,その成果を臨床の評価において享受することは難しい。そこで本研究では,随意的に動揺しやすい姿勢条件を課した状態で,視覚的に捉えやすい身体の体節のVertical Angle(VA:垂直軸に対する角度)に着目して,それらの時系列データの関係性を検討した。【方法】下肢に整形外科的既往がない健常成人女性9名(平均年齢21.6±0.7歳,平均身長162.1±4.4cm,平均体重54.4±4.0kg)を対象とした。計測には8台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析装置(VICON NEXUS 1.7.1:VICON社)と4枚の床反力計(KISTLER社製)を用い,サンプリング周波数は200Hzとした。被験者にPlug-In Gait Full Body Modelに従い35個の直径14mmの赤外線反射マーカを貼付した。床反力計上にて両上肢は体側に固定し,爪先立ちを30秒間保持させた。マーカの三次元座標情報から矢状面上における体幹体節角度(Trunk VA)と下腿傾斜角度(Tibia VA)を算出した。解析には計測開始から15秒経過時のつま先立ち動作の10秒間のデータを抽出し,その間のTrunk VAに対してその前後5秒間のTibia VAのデータに対し,相互相関関数(Cross Correlation Function;CCF)解析により相関のピーク値とその時のTime Lagを算出した。この結果から,静止立位時に外乱を加えたときの重心の変化時間は約700msという先行研究より,ピーク値のTime Lagが±1secの範囲内にある試行のみを抽出した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,対象者には研究の目的と内容について書面と口頭にて十分に説明を行い,書面にて同意を得た。本研究は所属大学の倫理委員会の承認を得て遂行した。【結果】9人各3試行を行い,データの欠損等がなかった26試行のうち,Trunk VAとTibia VAの相関のピーク値が,±1sec以内に見られたものは9試行であった。そのうちピーク値が負となったものは8施行,正となったものは1試行のみであった。姿勢制御に関与していると考えられるピーク値のTime lagが±1sec以内であった施行のうち,負のピーク値が多いという結果になった。【考察】本研究では,つま先立ち実施時のTrunk VAとTibia VAにおいて,そのほとんどが逆位相で制御されているという結果が得られた。これは,静止立位時の角加速度で股関節と足関節の逆位相の関係性が見られたとするSasagawaら(2008)の報告と同様の傾向性を示している。我々の研究においては,股関節ではなく体幹を計測対象とし,Sasagawaらの報告では関係性が見いだされなかったとされる体節角度変化において,体幹と下腿のVAの間に一定の傾向性を認めた。このことから,静止立位とつま先立ちでは,足関節以上の体節において,同様の姿勢制御すなわち下位体節と上位体節で逆位相での制御が行われている可能性を示唆している。今後は先行研究同様に,つま先立ちにおける運動学的データを多面的に解析していくことで,つま先立ちと静止立位の間の姿勢制御メカニズムの共通性を明らかにしていく必要がある。それにより,臨床場面において垂直軸に対する下腿と体幹体節角度の関係性を評価することで,立位バランス制御能力をより簡便にスクリーニングすることができる可能性がある。【理学療法学研究としての意義】現在の臨床における立位バランスの評価方法は,数多く提唱されているが,その多くが他項目実施により多面的な評価を行う必要があり,簡便とは言い難い。本研究の成果および今後の研究により,立位姿勢における制御メカニズムと爪先立ちの制御メカニズムに共通性が認められれば,臨床においてより簡便に対象者の立位バランスをスクリーニングすることが可能となり,その意義は大きい。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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