理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0204
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口述
1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法が骨格筋再生におけるマクロファージ動態に及ぼす影響
小野 美遥藤田 直人富岡 智香出家 正隆
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抄録

【はじめに,目的】高気圧高濃度酸素療法は骨格筋損傷後の治療手段として用いられており,2気圧以上での治療による有効性が報告されている。先行研究では,高気圧高濃度酸素環境への暴露により,再生筋線維の成熟促進や収縮特性の早期回復などが報告されている。骨格筋の再生に関して,近年,マクロファージの動態が注目されている。マクロファージは損傷に伴う変性領域を貪食するだけでなく,サテライトセルの活性化や増殖に作用するサイトカインを分泌するとされており,骨格筋再生において重要な役割を担っている。理学療法で高気圧高濃度酸素療法を実施する場合は2気圧以下での使用に限られることが多く,一般的に1.25気圧前後の加圧が用いられている。しかし,理学療法で広く用いられている1.25気圧での高気圧高濃度酸素療法に,有効性が報告されている2気圧以上の高気圧高濃度酸素療法と同等の効果があるかどうかは不明である。もし,2気圧以下で行う高気圧高濃度酸素療法が骨格筋損傷後の治療手段として有効であれば,理学療法の選択肢を広げると思われる。本研究では,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法が骨格筋の再生過程に及ぼす影響を,マクロファージの動態に着目して検証した。【方法】8週齢のWistar系雄ラットの前脛骨筋に5%塩酸ブピバカインを注入し,筋損傷を惹起した。その後,全ての動物を無作為に,高気圧高濃度酸素環境で飼育する群(HB群)と通常環境で飼育する群(Non-HB群)に区分した。高気圧高濃度酸素環境への暴露は損傷直後から開始し,HB群の動物は,通常空気にて1.25気圧に加圧したカプセル内で飼育した。損傷12時間後,24時間後,48時間後,5日後,7日後に前脛骨筋を摘出し,液体窒素を用いて急速凍結し,-80℃で保存した。その後,凍結切片を作製し,HE染色を行い,単位面積当たりの中心核線維数と中心核線維の横断面積を測定した。また,ジストロフィン,CD68,iNOSの免疫組織化学染色を行い,単位面積当たりのマクロファージ数を算出した。統計処理には対応のないt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を受けた上で実施した。【結果】損傷7日後において,HB群の中心核線維の横断面積はNon-HB群よりも有意に高値を示した。一方,単位面積当たりの中心核線維数に関しては,両群間に有意差を認めなった。HE染色所見より,損傷12時間後における炎症性細胞の浸潤は両群間において同等であった。しかし,損傷24時間後及び48時間後において,HB群の単位面積当たりのマクロファージ数はNon-HB群よりも有意に高値を示した。また,全ての時点において,iNOSとCD68の共発現が数多く確認された。【考察】1.25気圧環境への暴露により,骨格筋再生と損傷部位へのマクロファージの走化性が促進された。HB群の中心核線維の横断面積が高値を示したことから,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法は,サテライトセルの活性化や増殖,分化,融合という過程を促進する可能性が示唆された。また,HB群の単位面積当たりのマクロファージ数が高値を示したことから,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法は,マクロファージの走化性を促進することが示唆された。壊死領域に遊走してきたマクロファージはIGF-1などの成長因子を産生するとされている。加えて,低酸素環境はマクロファージの遊走を抑制し,炎症を遷延させるとされている。このことより,高気圧高濃度酸素環境への暴露は壊死領域の低酸素化を改善し,マクロファージの走化性を促進することで,成長因子の発現量を増加させた可能性がある。また,iNOSとCD68が共発現していたことから,単位面積当たりのマクロファージ数が多いHB群では,NOの発現量が増加していた可能性がある。iNOSのノックアウトマウスやNOの除去剤を用いた先行研究では,骨格筋再生の遷延化が報告されている。よって,高気圧高濃度酸素療法による再生促進効果の作用機序には,マクロファージによるNOの産生も関与していると思われる。以上の事から,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法は骨格筋損傷後の治療手段として有効であり,その作用機序にマクロファージの走化性が関与している可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】骨格筋損傷に対する1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法の有効性を確認し,その作用機序の一部を明らかにしたことは,理学療法による治療の選択肢を増やし,治療手段の発展に貢献するものであると思われる。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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