理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0519
会議情報

ポスター
体感型ゲームの遂行能力に対するバランス機能および認知的注意・遂行機能の関連
齋藤 徹浅川 康吉
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】近年,リハビリテーションの分野において,体感型ゲームを用いた介入研究が多く行われ,バランス機能や認知機能に対する効果が報告されている。しかし,ほとんどの研究が運動機能もしくは認知機能のどちらかについて論じたものである。そこで,今回は体感型ゲームの遂行能力に対して運動機能や認知的な注意・遂行機能が関連するかどうかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は介護老人保健施設入所者21名とした。対象者の属性は男性11名,女性10名であり,年齢は77.3±9.9歳であった。対象者の取り込み基準は監視レベル以上にて立位保持および歩行が可能なこととした。コミュニケーションに支障をきたすような重度の認知症および高次脳機能障害を有する者は除外した。体感型ゲームは任天堂(株)より発売されているNintendo WiiTMおよびWii Fit PlusTM,バランスWiiボードTMを使用した。Wii Fit PlusTMは69種類もの運動種目が用意されているが,今回はその中で立位での重心移動が必要とされる「ヘディング(HE)」を使用した。体感型ゲームの遂行能力の指標としてHEの得点と成功回数を記録することとした。HEの得点とはゲームの結果がゲーム内で計算され,画面上に出力されるものである。HEの成功回数とは,得点と異なりゲーム内での成功回数を検者が記録したものである。その他に運動機能の評価としてFunctional Reach Test(FRT)を行った。認知的な注意・遂行機能の評価として,山口符号テスト(YKSST)を行った。YKSSTはウェクスラー成人知能検査の符号問題を日本の高齢者用に改変したものである。HEは事前に1回の練習を設け,その後2回の測定を行い,最大値を測定値として記録した。FRTは2回行い,最大値を測定値とした。YKSSTは練習問題を1回行い,その後1回のみの測定を行った。統計解析はSPSS19.0J for Windowsを用いた。各項目間における関連についてはPearsonの相関係数を用いて分析を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は老年病研究所附属病院の倫理審査委員会の承認を得た。また,対象者には説明書を用いて口頭にてその目的や方法,自由意志での参加であることなどを説明し,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言を遵守して行った。【結果】各項目における平均値はHE得点が12.0±5.1,HE成功回数が12.0±3.6,FRTが16.2±8.6,YKSSTが19.4±10.7であった。HE得点と有意な相関が認められた項目はYKSST(r=0.449,p<0.05)であった。HE成功回数と有意な相関が認められた項目はFRT(r=0.560,p<0.01)とYKSST(r=0.463,p<0.05)であった。【考察】今回の調査ではHE成功回数とバランス機能および認知的な注意・遂行機能との関連が得られた。HE得点はFRTとの有意な関連はなく,YKSSTと有意な関連が認められた。HEは画面の向こう側から左右および中央へと飛んでくるボールに合わせて,左右への重心移動を行い,それにより画面内のキャラクターがボールを頭で打ち返すというゲームである。ゲーム内ではボールの他にボールに類似した物(靴,白黒のやかん)が飛んでくることがあり,それを打ち返すと減点となってしまう。さらに連続してボールのみを打ち返すことにより,得点が徐々に加算されていく得点付けがなされている。このことから,HEにおいて高い得点を獲得するためには成功回数の多さよりもボールとその類似物を判断し,正確にボールのみを打ち返す能力が求められることが示唆される。また,HEの成功回数を得るためには,前方から飛んでくる物体を視認し,その方向に合わせた適切な重心移動が求められる。このことから体感型ゲームでは単なるバランス機能だけでなく,障害物や壁,段差などの自分がいる空間に合わせたバランス能力が必要となると考えられる。これらのことから,HEでは従来のバランス練習の効果に加え,日常生活に必要となる遂行機能の向上にも効果があると示唆される。【理学療法研究としての意義】本研究の結果から,体感型ゲームの遂行能力はバランス機能および認知的な注意・遂行機能の両面を反映していることが明らかとなった。よって体感型ゲームによる介入はこの2つを複合した機能向上が得られ,より日常生活に即した介入方法であることが示唆される。また,今回使用した機器は安価で容易に手に入ることから,医療機関だけでなく,施設や地域でのコミュニティ,自宅でのトレーニングにも用いることができると考えられる。

著者関連情報
© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top