理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0845
会議情報

ポスター
脳卒中片麻痺患者の上肢治療用リハビリロボットの開発(第5報)
―上肢到達把持動作に伴う肩甲骨・体幹・股関節との関連性について―
涌野 広行山中 晶子松田 貴郁林 克樹小野山 薫坂井 伸朗村上 輝夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】脳卒中患者の上肢治療用ロボットの開発において,我々は上肢と体幹の協調した運動制御が重要と考えている。しかし,上肢と体幹の協調した運動制御を有した上肢治療用ロボットの研究・開発は極めて少ない。我々は,これまで単一方向への到達把持動作時の体幹運動の研究を基に,今回,自作したロボット装具を装着し到達が可能であった77カ所の平面空間における到達把持動作時の肩関節,肩甲骨,体幹,股関節の各運動を測定し,被験者間の比較,分析結果から上肢治療用ロボット開発の手がかりが得られたので報告する。【方法】対象は,本研究への参加に同意した健常成人男性A,Bの2名(年齢35歳,38歳)とした。使用したロボット装具は,肩関節(屈曲・伸展),肩甲骨上方回旋,体幹(屈曲・伸展,回旋,側屈),股関節(屈曲・伸展)が可能な運動軸を有し,各運動軸にサーボモーター(Maxon社およびYasukawa社)と力センサー(共和)を設置し,上腕には電子式ゴニオメーター(Biometrics社)を取り付け,殿部・足底には床反力計(Nintendo社)を設置した。これらをコンピューター(Interface社)制御により被験者の動きに対し追従制御,重量免荷制御をおこない,到達把持動作時の各関節の運動角度を定量的に計測した。到達把持課題は4.5cmの立方体を,あらかじめセットした身体前方の平面パネル(大腿上面の高さ)上にランダムに77カ所提示し,到達把持動作を実施した。座標は両膝の中心から前方延長軸をY軸,Y軸と垂直に交わる左右空間をX軸とし,膝の5cm前方を中心点(X=0,Y=0)とした(右側,前方をプラス)。目標物の提示位置は-35cm≦X≦15cm,0cm≦Y≦30cmとした。運動開始姿勢は自然座位,左上肢下垂位とした。運動の開始は立方体に埋め込んだLEDライトの光刺激を合図とし,運動終了は加速度センサーにて記録した。各関節運動間,両被験者間の比較はピアソンの相関を用い分析した。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には研究目的,実施時間・内容,リスクとしての身体に加わるモータートルクの安全性について説明し書面にて同意を得た。なお本研究の実施には九州大学大学院及び当院の実験倫理委員会の承認を得た。【結果】両被験者ともに,肩関節屈曲運動に伴いほぼ全領域で計測した全ての関節に協調した運動が確認された。被験者Aの肩関節屈曲との他関節の相関は,肩甲骨:R=0.96±0.05,体幹屈曲:R=0.75±0.18,体幹側屈:R=0.95±0.06,体幹回旋:R=0.79±0.09,股関節屈曲:R=0.88±0.33,被験者Bは肩甲骨:R=0.98±0.01,体幹屈曲:R=0.55±0.30,体幹側屈:R=0.90±0.17,体幹回旋:R=0.96±0.07,股関節屈曲:R=0.99±0.01となり,被験者Bの体幹屈曲を除いて高い相関を示した。また,体幹回旋は到達把持の際に全領域において右回旋運動を示した。体幹側屈は身体正中線より右側で右側屈が,左側で左側屈が確認された。体幹屈曲は目標物の提示位置により屈曲運動のみと動作中に屈曲から伸展に切り替わる二相性を示した。また,両被験者間の各関節運動の比較では,肩関節屈曲,肩甲骨上方回旋,体幹回旋,股関節屈曲において同様の運動パターンを示し相関が高かった(肩関節:R=0.98±0.02,肩甲骨上方回旋:R=0.96±0.07,体幹回旋:R=0.96±0.14,股関節:R=0.99±0.01,体幹側屈:R=0.56±0.71,体幹屈曲R=0.46±0.48)。体幹側屈は-30cm≦X≦0cmの領域で被験者間の運動方向が異なる結果となった。体幹屈曲は全領域において運動パターンに統一性がみられなかった。【考察】身体前方の平面空間への到達把持動作は,肩関節屈曲に伴い肩甲骨上方回旋,体幹屈曲・側屈・回旋,股関節屈曲の協調した運動を伴うことが分かった。また,左上肢による到達把持動作では,体幹の右回旋を伴うことや体幹側屈運動の方向が身体正中線周囲で切り替わることが示唆された。また,両被験者間の比較から目標物の位置が肩関節屈曲,肩甲骨上方回旋,体幹回旋,股関節屈曲を決定していること,体幹屈曲と側屈の運動パターンには個人差があることが示唆された。これは到達把持動作が共通した運動と個人差を伴う体幹の運動パターンが混在しており,個人による身体の特性(身長や四肢長など)や把持様式の違いが体幹の屈曲・側屈運動に影響するのではないかと考える。今後は体幹側屈のように被験者によって運動方向が切り替わる領域や,体幹屈曲運動の役割について検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】到達把持動作時の肩甲骨,体幹,股関節を含めた動作パターンを分析することは,今後の上肢治療用ロボットの開発と臨床への応用につながる。その為,本研究を通しての到達把持動作時の体幹運動制御の検証は理学療法学においても新たな知見をもたらすと期待される。

著者関連情報
© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top