理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0846
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麻痺側下肢筋力と麻痺側への重心移動能力との関係
増岡 康介上原 貴廣喜多 一馬眞伏 美和静間 久晴
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抄録

【はじめに,目的】脳卒中片麻痺患者において,立位場面での麻痺側への重心移動能力は基本動作能力やADLに関与し重要とされている。重心移動能力を規定する要素として麻痺側下肢筋力の重要性が考えられているが,立位姿勢制御においては様々な身体機能や心理的要因,環境要因など多くの要素が関与すると言われており,必ずしも筋力を向上させる事が麻痺側への重心移動能力の向上につながるとは言い切れない。しかし,麻痺側に全く荷重できないような症例に関しては,重心移動が可能になる程度の両脚立位を構築するために,最低限の筋力の向上が必要と考えられる。これらを考えると,立位における麻痺側への重心移動能力を向上させるためには,麻痺側下肢の筋力の大きい症例と小さい症例とで,そのアプローチの対象となる要因が大きく異なる事が想定される。そこで今回は脳卒中片麻痺患者を対象に麻痺側下肢筋力の低い場合(以下,筋力低値群)と高い場合(以下,筋力高値群)とで,それぞれ麻痺側への重心移動能力との関係性があるのかを検討することを目的とした。【方法】対象は当院に入院している脳卒中片麻痺患者名18名(71.2±6.45歳)とした。なお対象者は足底接地での立位保持が可能であり,明かなアライメントの崩れがあるものは除外した。また,高次脳機能障害や失語症がなく,言語の理解・表出共に問題がない者とした。麻痺側下肢筋力の測定はANIMA社のHand Held Dynamometer(以下,HDD)を用いて行った。まず,対象者には固定用の骨盤帯ベルトを装着させ,ベッド上背臥位をとらせた。次に,足底にHDDを装着し足底を壁に接地させ,麻痺側膝関節15°を検者が設定した。なお検者の1名は対象者の肩を頭上から固定し,もう1名は骨盤帯ベルトを下方より固定した。その後,麻痺側下肢で壁を押し付ける等尺性収縮を5秒間行わせ,得られた最大トルク(kgf)から,麻痺側下肢筋力を体重で除した数値(kgf/kg)を筋力のデータとして採用した。麻痺側重心移動距離(以下,w/s距離)の測定は,Nintendo RVL-WBC-01を使用した。対象者には裸足でNintendo RVL-WBC-01に乗り,足部はそれぞれ中心位置より各15cm外側部に母指が位置するよう立位姿勢をとらせた後,麻痺側へ最大重心移動をさせた位置で10秒間とどまるよう指示した。なお,視線は前方に指定した黒点を注視させた。データはPCにサンプリング周波数100Hzで保存し,麻痺側の最大重心移動10秒の内,5秒間の平均値を求め,中心位置から平均値までの距離をw/s距離(cm)として算出した。得られた筋力のデータから,中央値より高いものを筋力高値群,中央値より低いもの筋力低値群とし,それぞれの群において,筋力とw/s距離をspearmanの相関係数より算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の対象者には,研究の趣旨,目的,内容,方法,利益などの説明を文章および口頭にて行った後に書面にて同意を得たうえで,研究を実施した。【結果】筋力高値群の筋力は0.437(±0.046)kgf,w/s距離は9.674(±4.528)cmであった。筋力低値群の筋力は0.241(±0.049)kgf,w/s距離は3.087(±3.901)cmであった。麻痺側筋力とw/s距離の相関結果は,筋力低値群では高い相関が認められ(r=0.785),筋力高値群では低い相関となった(r=0.383)。【考察】結果より,筋力低値群において,w/s距離と麻痺側下肢筋力の高い関係性が示され,筋力高値群ではw/s距離と麻痺側下肢筋力の関係性が低いことが示された。これらの結果より,麻痺側への重心移動能力を向上させるためには,麻痺側下肢の筋力が弱い症例は,その筋力の改善が有効であり,麻痺側下肢が比較的残存しているような症例に対しては,必ずしも筋力の改善が有効でない事が示唆される。後者においては,身体機能や心理的要因,環境要因など様々な要因の問題や,それらの相互作用自体に問題がないかを考え,アプローチを選択する必要があると思われる。今回の検証により,脳卒中片麻痺患者における重心移動の治療場面において,筋力の問題なのか,筋力以外の要素の問題なのかを指導者は正しく把握する必要性が示された。今後麻痺側下肢筋力とw/s距離に関してその他の要素の検討や立位場面での動作などの検討もしていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】麻痺側下肢筋力の程度によって重心移動に関わる要素が変わってくることが考えられ,指導者はそれを含め重心移動やそれに関わる動作に関して評価,治療方法を選択する際の一助となる。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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