理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1342
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口述
足関節不動モデルラットの骨格筋における圧痛覚閾値の低下は神経成長因子の発現が関与する
大賀 智史関野 有紀片岡 英樹濵上 陽平中願寺 風香坂本 淳哉中野 治郎沖田 実
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キーワード: 不動, 筋痛, 神経成長因子
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抄録

【はじめに,目的】われわれは,足関節不動モデルラットを用いて不動に伴う痛みの病態とその発生メカニズムについて検討を重ね,これまでに皮膚における痛覚閾値の低下のメカニズムを明らかにした。そして,最近,同モデルは皮膚だけでなく骨格筋(腓腹筋外側頭)にも圧痛覚閾値の低下が惹起されることを見出し,この事象は筋線維損傷に由来しないことを組織学的解析により確認している。また,同筋では痛みの内因性メディエーターとして注目されている神経成長因子(nerve growth factor:NGF)の発現量が増加していたことから(第48回日本理学療法学術大会),われわれは不動に伴う骨格筋の圧痛覚閾値の低下のメカニズムにはNGFが関与しているのではないかと仮説している。そこで今回,仮説を検証する目的で,足関節不動モデルラットの腓腹筋外側頭に対してNGFレセプターであるTrkAの阻害剤K252aを筋内投与し,圧痛覚閾値がどのように変化するのかを検討した。【方法】実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット13匹を用い,これらを4週間通常飼育する対照群(n=4)と,右側足関節を最大底屈位にて4週間ギプス固定する不動群(n=9)に振り分けた。実験期間終了時,不動群の腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値を圧刺激鎮痛効果測定装置(Randall-Selitto)を用いて測定した。その後,不動群の一部のラットにはTrkAの阻害剤K252a(30µg/kg)を筋内投与し(K252a群,n=5),残りのラットにはPBSを筋内投与し(vehicle群,n=4),投与10分,20分,30分,60分後における腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値を経時的に測定した。なお,圧痛覚閾値の測定においては,各肢5回の測定を行った結果から最大値と最小値を除外した3回の測定値の平均値を圧痛覚閾値として採用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属大学の動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に基づいて実施した。【結果】4週間の不動期間終了後,K252a群ならびにvehicle群の腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値は対照群のそれよりも有意に低下していることが確認された。K252a群の圧痛覚閾値はK252aの筋内投与10分後から上昇し,対照群との有意差も認められなくなったが,vehicle群では圧痛覚閾値に変化は認められず,K252a群とvehicle群の間にも有意差を認めた。そして,その後の経過を見ると,K252a群で見られた圧痛覚閾値の上昇は投与30分後から徐々に低下し始め,投与60分後では投与前とほぼ同程度となった。【考察】NGFは元来,神経線維の成長や側枝発芽を促す物質とされてきたが,最近の先行研究では,痛みの発生に関与するとされるCGRPやBDNFなどの神経ペプチドやTRPV1やP2X3といった侵害受容体の発現を増加させる機能があることが明らかになっている。また,NGFは自由神経終末にあるTrkAに結合することにより,TRPV1などの侵害受容体の感度増強,いわゆる末梢性感作を引き起こすともいわれており,様々なメカニズムで痛みの発生に関与している可能性がある。今回,圧痛覚閾値の低下を示した足関節不動モデルラットの腓腹筋外側頭に対して,NGFレセプターであるTrkAの阻害剤K252aを筋内投与したところ,圧痛覚閾値の低下が回復した。この結果は,不動に伴う骨格筋の痛みにはNGFが強く関与することを示唆している。また,圧痛覚閾値の低下の回復は阻害剤K252aの投与から10分後という極めて短時間で認められたことから,その作用は,神経ペプチドや侵害受容体の発現増加ではなく,NGFの発現増加による末梢性感作が主ではないかと推察される。ただ,骨格筋の不動化によるNGFの発現増加のメカニズムについては,今回の結果から明らかではない。ただ,NGFは線維芽細胞や肥満細胞,マクロファージが産生することが知られており,不動化された骨格筋ではマクロファージが増加することが所属研究室の先行研究で明らかになっている。したがって,この事象がNGFの発現増加と痛みの発生に関与している可能性があり,今後検討すべき課題と考えている。【理学療法学研究としての意義】本研究では,不動によって惹起される骨格筋の痛みのメカニズムにNGFの発現増加が関与することを明らかにした。われわれ理学療法士は骨格筋を含む末梢組織に対して直接介入可能であることから,本研究の発展は不動に伴う骨格筋の痛みに対する治療戦略の開発につながると期待できる。したがって,本研究は理学療法学研究として十分意義があるといえる。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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