理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1343
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口述
疼痛および炎症はラット膝関節炎により生じる屈曲拘縮の形成に関与する
金口 瑛典小澤 淳也山岡 薫
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キーワード: 関節炎, 関節拘縮, 疼痛
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抄録

【目的】関節拘縮は関節炎に続発する機能障害の一つである。しかしながら,関節の不動に伴う拘縮と異なり,関節炎に続発する関節拘縮の形成機序についての報告はほとんどない。我々はこれまで,ラット膝関節炎に続発して関節拘縮が形成される際に,歩行時の膝関節運動の減少がほとんど生じないことから,関節炎に誘発される拘縮形成の主要因は関節の不動ではないことを報告した(ACPT,2013)。そこで本研究では,消炎や鎮痛が関節拘縮形成に及ぼす影響を調べることで,関節炎に誘発される関節拘縮を引き起こす要因を調べることを目的とした。【方法】8週齢の雄性ウィスターラットを対照群(n=5),関節炎群(CFA群,n=6),関節炎+モルヒネ投与群(CFA+M群,n=5),関節炎+デキサメタゾン投与群(CFA+D群,n=5)に分けた。膝関節炎は,右膝関節内に完全フロイントアジュバント(CFA)を0.1 ml投与することで惹起した。対照群には同量の生食を投与した。CFA+M群にはCFA投与直後から,背部皮下に設置した浸透圧ポンプにより9.6 mg/day(41-44 mg/kg/day)のオピオイド鎮痛薬である塩酸モルヒネを持続的に投与した。CFA+D群には0.3 mg/kgのステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンを1日1回皮下投与した。対照群とCFA群には300 μlの生食を1日1回皮下投与した。CFAもしくは生食投与後1,3,5日に右膝の横径をノギスで測定し,関節の腫脹を評価した。また,CFAもしくは生食投与後3日にトレッドミル歩行動作をデジタルカメラで撮影し,後肢荷重時間比(右/左)を算出し,疼痛の指標とした。CFAもしくは生食投与5日後,右後肢の皮膚を切除した後,麻酔下にて膝関節伸展方向に14.6 N・mmのモーメントをかけた状態で,三次元動作解析装置を用いて大転子,膝関節外側裂隙,外果のなす角度を測定し,膝関節伸展可動域(伸展ROM)とした。さらに,膝関節屈筋を切断した後,同様の方法で再度伸展ROMを測定した。統計解析には一元配置分散分析もしくはクラスカル・ウォリス検定を用い,有意差が認められた場合には多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は,所属機関倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】右膝横径について,CFA群とCFA+M群はCFA投与後1日で最も増大し(それぞれ対照群の154%,141%,ともにP<0.05),3,5日後ではいずれの群でも軽減したものの,横径の有意な増大が残存した(5日でそれぞれ113%および113%)。CFA+D群では,CFA投与1日後に有意な増大(127%)を示したが,その程度はCFA群よりも有意に軽度であり,3,5日では対照群との差が完全に消失した(それぞれ102%および98%)。後肢荷重時間比は,対照群(1.03±0.05)と比較してCFA群(0.79±0.13)で有意に減少したことから,疼痛性逃避行動の出現が示唆された。一方,CFA+M群およびCFA+D群では,後肢荷重時間比の減少は認められなかった(それぞれ1.00±0.11および1.00±0.09)。膝関節伸展ROMについて,筋切断前では対照群が151±3°に対し,CFA群で130±6°と有意な減少(屈曲拘縮)が生じた。一方,CFA+M群とCFA+D群では,それぞれ147±6°,151±2°と屈曲拘縮はほぼ完全に抑制された。膝屈筋を切除した後の伸展ROMは,対照群で165±5°であったのに対し,CFA群では153±5°,CFA+M群で154±4°と有意な伸展制限が認められた一方で,CFA+D群では165±9°と対照群と同等であった。【考察】CFA+M群では,関節炎による関節の腫脹は変化しなかった一方で,後肢荷重時間比の減少は完全に抑制された。これは,塩酸モルヒネの投与が炎症の程度に影響を及ぼすことなく,疼痛のみを抑制したことを示唆する。塩酸モルヒネ投与による鎮痛により,関節炎による筋切断前(筋性要因と関節性要因を含む)の屈曲拘縮はほぼ完全に抑制された一方で,筋切断後の伸展ROMはCFA群と同等であった。この結果は,関節炎に伴う疼痛が筋性制限の形成において重要な役割を担うが,関節性制限の形成には無関係であることを示す。また,CFA+D群では,関節の腫脹と後肢荷重時間比の両方が抑制され,炎症そのものが抑制されたことを示す。その結果,筋切断前後いずれの伸展ROMも対照群と同程度に維持された。この結果は,関節の炎症そのものが関節性の制限を引き起こしていたことを示唆する。本研究の結果から,関節炎に対する鎮痛や消炎が関節可動性の維持においても極めて有用であることが示唆される。【理学療法学研究としての意義】関節拘縮に対する理学療法は,その原因に関わらず関節可動域運動が中心となっている。本研究では,膝関節炎に続発する関節拘縮が,鎮痛および消炎によって軽減されることを明らかにした。この結果は,関節炎に続発する関節拘縮の予防を目的とした治療戦略において新たな視点をもたらす。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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