理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1477
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脳卒中片麻痺患者の退院時歩行能力に影響を与える因子について
笹澤 まつみ熊木 由美子松葉 好子前野 豊
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キーワード: 片麻痺, 歩行, 予後
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抄録

【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟(回リハ病棟)は,ADL能力の向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としている。家庭復帰に向けては,自宅を一人で歩行できるか否かを自宅復帰の一指標と考える患者や家族は多く,歩行予後を検討することは重要である。脳卒中患者の歩行の予後予測に関する報告は多く,PT評価と歩行の関連性を示す報告もあるが,症例数が少ないものや,測定時期のばらつきもみられる。本研究は,発症から30日毎にPT評価を行い,回リハ病棟入院基準の60日までの評価と退院時歩行能力の関連を後方視的に調査し,歩行能力に影響する変数を分析すること,評価時期の違いによる各変数の影響度合を確認することを目的とした。【方法】対象は,当院に急性期より入院し,回リハ病棟を経て退院した脳卒中片麻痺患者のうち,発症後30日に平地歩行が自立していない85名とした。運動失調症,両側片麻痺,測定が困難な高次脳機能障害や歩行に影響を与える骨・関節疾患は除外した。内訳は,脳梗塞42,脳出血40,くも膜下出血3,麻痺側は右50,左35,年齢は66.2±11.2歳,男性56,女性29であった。これら対象を,退院時のFunctional Ambulation Categories(FAC)により自立群(歩行自立)と非自立群(歩行監視介助)の2群に分類し,性別,麻痺側,年齢,入院期間,PT実施期間を調査した。また評価項目として発症後30日と60日の下肢Br.stage,MMT(非麻痺側膝伸展筋),Berg Balance Scale(BBS),FIM(運動・認知)を抽出した。自立群と非自立群の群間比較はχ²乗独立性の検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。30日と60日での群内比較はWilcoxonの符号付順位和検定を行った。退院時の歩行能力に影響する変数の分析と予測確率の算出には,群間比較で有意差を認めた評価項目を独立変数,退院時の歩行能力を従属変数として,ステップワイズ法によるロジスティック回帰分析を行った。60日の評価で歩行自立となった19名は,60日の分析から除外した。統計は有意水準5%以下を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言を遵守し,院内の倫理委員会の承諾を得た。【結果】自立群の年齢は65.4±11.6歳,男性33,女性15,麻痺側は右31,左17,入院期間123.7±36.6日,PT実施期間119.5±36.0日。非自立群は67.3±10.7歳,男性23,女性14,麻痺側は右19,左18,入院期間157.3±40.0日,PT実施期間153.6±40.1日であった。両群の年齢や性別,麻痺側は有意な関連を認めなかったが,入院期間とPT実施期間は有意差があった。30日と60日の群間比較では,下肢Br.stage,MMT,BBS,FIM(運動・認知)の各項目で有意差を認めた。30日60日の群内比較では,両群とも下肢Br.stage,BBS,FIM(運動・認知)の項目は有意差を認めたが,MMTで有意差を認めたのは自立群のみであった。ロジスティック回帰分析の結果,30日では,MMTとBBSとFIM(認知)が変数選択され,MMTとBBSが有意とされた。60日では下肢Br.stage,MMT,BBS,FIM(認知)が変数選択され,MMTが有意とされた。ここから求めた予測確率の判別的中率はそれぞれ82%,86%であった。【考察】群間比較では評価項目全てで自立群は非自立群より有意に高い値を示し,自立群は30日の時点で既に運動能力,認知能力とも非自立群より高い状況にあったと考えられた。群内比較では,自立群は全ての評価項目で有意に改善していたが,非自立群はMMTに有意差はみられなかった。また,回帰分析による退院時の歩行能力に影響する変数は,30日,60日の両時期で非麻痺側筋力が有意であった。脳卒中患者の非麻痺側筋力は歩行能力に影響するとした報告は多い。今回の結果も同様であり,非麻痺側筋力は発症後60日までの期間で退院時の歩行能力の予測に重要であることが示唆された。発症後30日の時点でBBSは有意な変数とされた。丹羽らは,BBSは発症から6週までは急速な改善傾向を示し,先行的に歩行の基礎的姿勢制御機構を評価するBBSは歩行獲得の予測に有益であると報告している。このことからも,BBSは発症後比較的早期の歩行能力の予測に重要であると考えられた。さらに予測確率の判別的中率は両時期とも80%以上と高く,変数選択された評価は日常的な評価項目であり,臨床的に有用と考えた。今回の研究の限界は,同一施設で加療された症例であり,統一された環境で一貫したアプローチを受けている。従って条件の異なる他施設より転入院した症例の調査検討が今後必要と考えた。【理学療法学研究としての意義】一定数の症例で評価時期を統一して,退院時の歩行能力を予測する因子の検討を行ったこと,評価時期による予測因子の違いを明らかにしたことは,先行研究を補完するものとして意義があると考える。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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