理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0091
会議情報

口述
在宅施設における経管栄養等患者に対するリハビリの取り組み
急性期病棟から直接受入を行うサービス付き高齢者向け住宅のリハビリ体制づくりについて
櫻井 謙治吉岡 一優
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】サービス付き高齢者向け住宅 アップルウッド西大寺(以下,「当サ高住」と略す。)は,平成25年10月に開設。施設特徴は,平成26年度医療制度改訂を開設前から意識し,在宅支援から看取りまで対応可能な医療対応型サ高住を目指した。平成26年10月末時点の入居受入れ者数は52名,急性期病棟からの紹介入居が約7割で,平均要介護度4.07,医療区分2~3比率55%。主な対象者は,医療的ケアが必要な重度要介護高齢者であった。当サ高住が紹介元の日赤病院等に要求されていることは,転院後も医療継続ができ全身状態が改善すること,当サ高住ではQOLを保った坐位生活が当面のゴール設定であった。今回,急性期病棟から当サ高住への直接受け入れをするための体制づくりに際し,特に経管栄養等患者のリハビリ提供に関して,効果的と思われる運用と若干の知見を得たので報告する。【方法・具体的取組み】経管栄養・吸痰等が必要な方に対してのリハビリ目的は,廃用性症候群を断ち切り残存機能強化,及び居室内臥床からの解放と集団適応性向上,生活自立度の改善を高めることとし,経管栄養等の方であっても2METs以下の運動強度で週12エクササイズ以上の運動量を提供すれば,廃用性から離脱し安定した全身状態の維持・改善が得られると仮説を立てて取り組んだ。対象者は経管栄養等の方10名で輸液・末梢点滴・腸瘻各1名,経鼻経管栄養3名,胃瘻4名。平均要介護度4.4。試験期間は平成26年10月1日からの3週間,週6日ペースで取り組んだ。離床確保の体制づくりとして,日中約3時間以上の離床のうち,集団内での個別的リハビリ及び他職種連携での活性化ケアサービスを90分以上をローテーションして行うこととした。具体的な方法は,重症度に合わせて3~4名の2種類のグルーピングを行い,小集団で個別的リハビリ等を実施した。実施内容は,①最重症群には,離床・背面開放マッサージ・手指ROMエクササイズとコミュニケーション等,②重度介助者群に対して,離床以外に坐位前傾運動や起立着席運動,立位歩行等を提供した。運用と手順は,①日本リハビリテーション医学会の安全管理ガイドラインを元にした離床可否判定基準に従い,朝礼時に看護師から離床困難者を確認,それ以外の方を対象にバイタル測定を実施後,当日担当の介護職員・看護師と連携してリクライニング車椅子離床を行った。②ホールで車椅子離床と背面開放マッサージ等・休息・運動の各活動を提供し,延べ離床時間を長く確保した。評価は,ビデオ撮影とともにリハビリ結果と動作分析評価から改善効果を検証した。【結果】離床活動については,以前から実施していたが,経過は全員が現状維持に留まっていた。今回の試みで,1)10名全員2時間連続離床が可能となった。2)坐骨支持でリクライニング車椅子から背面開放状態にすると頸部回旋を伴う追視が可能となった方1名。3)平行棒を両手で把持し,本人の意思で体幹前傾運動が可能となった方2名。4)介助にて起立着席運動が可能となった方3名。5)座面を15cmアップすれば自力で起立できるようになった方1名。6)歩行器介助歩行が平均15m可能となった方1名。7)全く変化無し2名。今回,仮説通り,経管栄養等が必要な重度要介護高齢者であっても,8割の方に改善が得られた。【考察】現行の医療リハビリ制度下では,運動強度・量については多くは担当セラピストにゆだねられている。短期集中リハビリであっても経管栄養・吸痰が必要な寝たきり患者はベッドサイドリハビリに終始することが推測され,セラピスト数など労務環境によって,毎日23時間数十分の臥床が続くならば,廃用性が進行することは否定できない。在宅施設への転院推進と転院後のQOLを考えるならば,集団内個別リハビリが有効と考えます。例えばリクライニング車椅子を使用し,1人のセラピストが6名を2時間かけて関わることができれば,離床と運動量を多く確保でき効果的なのではないでしょうか。【理学療法学研究としての意義】平成26年度医療制度改訂により一般急性期病棟は,社会・経営的ニーズとして在宅復帰率75%と早期退院の課題を克服しなくてはならない。経管栄養・吸痰等の医療的ケアが必要な重度要介護高齢者の場合,受け入れ後方施設が少ない為に入院期間が長期化することが多い。在宅施設への転院を推進するためには,医療機関側についても集団内での個別リハビリ体制を整備し,離床時間の確保と活性化に向けた運動強度・量を提供することで早期に全身状態を安定させ,転院できる状態に導く医療リハビリ制度の見直しが急務ではないでしょうか。

著者関連情報
© 2015 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top