理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0521
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口述
地域在住中高年者における足部の機能としての足趾把持力の重要性
森田 泰裕新井 智之丸谷 康平藤田 博曉
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抄録

【はじめに,目的】高齢者の運動機能低下は生活活動量の低下や日常生活能力の低下を引き起こす原因となっている。運動機能低下に対して様々な取り組みが行われており,特に足趾把持力とバランス能力との関連について多くの研究がみられている。また足部屈曲距離は足趾把持力に影響を及ぼす因子といわれ,足底感覚は受容器の形態変化により感受性の低下が著しいといわれている。足趾の筋力として計測されている足趾把持力・足趾把持力に関係する足部屈曲距離・足底感覚は加齢とともに低下するといわれているが,実際に中高年者において低下がみられるか,バランス能力低下に影響を及ぼしているか検討しているものは少ない。そのため本研究の目的は地域在住中高年者の健康増進を促すため,加齢に伴う足趾把持力・足部屈曲率・足底感覚の変化とバランス能力との関連を明らかにする事である。中高年者の足趾把持力・足部屈曲距離・足底感覚とバランス能力との関係を分析し,足部の機能の重要性について検討することである。【方法】対象は,埼玉県在住の地域在住中高年者93名(平均年齢74.5±6.0歳(60~88歳),男性10名,女性83名)である。性別,Functional reach test(FRT),開眼片脚立ち時間(片脚立ち),足部の機能として足趾把持力,足趾及び前足部を自動運動で最大屈曲させ,屈曲前の足趾先端位置から屈曲時の足趾先端までの距離(足部屈曲距離),モノフィラメントを使用して足底部位(拇趾・拇趾球・小趾球・踵)を5段階で評価し数値が高いものと閾値が高いとした足底感覚を計測した。足底感覚は開眼片脚立ちを行った支持側を検討に使用した。統計処理は,年齢・各運動機能のそれぞれの関連についてピアソンの相関係数を用いた。また,足趾把持力,足趾屈曲距離,足底感覚の年代による変化について60代(60-69歳),70代(70-79歳),80代(80-88歳)の3群に分け比較を行った。バランス能力との関連について,従属変数を開片脚立ちまたはFRTとし有意な相関があった項目を独立変数とした重回帰分析を用いた。統計学的解析は,JMP Ver11を用い有意水準は5%未満とした。【結果】足趾把持力の平均は10.3±3.6kg,足部屈曲距離平均は足長に対して13.2±5.0%,足底感覚はすべての部位の中央値が2.0であった。年代別の変化は,足趾把持力は全ての年代において差がみられた(p<0.05)。足部屈曲距離は年代における差はみられなかった。足底感覚は右拇趾と右小趾の70代と80代の間にのみ差がみられた(p<0.05)。各機能項目の相関は,足趾把持力とFRT(r=0.40)・片脚立ち(r=0.49)・足部屈曲距離(r=0.50)に有意な正の相関を認めた。足部屈曲距離と片脚立ち(r=0.37)に有意な相関を認めた。足底感覚はすべての部位において有意な相関がみられた(p<0.05)。足底感覚と運動機能の間に相関はみられなかった。従属変数をFRTとした重回帰分析では足趾把持力が選択された(R2=0.1321)。従属変数を片脚立ちとした重回帰分析では年齢・足趾把持力が選択された(R2=0.3024)(p<0.05)。【考察】地域在住高齢者の足部機能強化が注目されている。足趾把持力は立位の平衡調整能力に関与し,握力と比べて加齢の影響を受けやすいといわれている。さらに足把持力と足部柔軟性に有意な相関があり,足趾把持力は足部柔軟性が高いほど強い傾向にあるといわれている。また加齢による感覚機能低下があり受容器の形態変化は下肢で著しいといわれている。そのため本研究では,実際に加齢に伴って足趾把持力・足部屈曲距離・足底感覚の低下がみられるかと,バランス能力低下が関係するのではないかと考え検討した。その結果,足趾把持力に加齢に伴った低下がみられ,バランス能力項目との相関と関連を認めた。足部屈曲距離は足趾把持力・バランス能力との相関があるものの,バランス能力低下との関連は認められなかった。また足底感覚においては,加齢に伴う低下は著明にみられず,他の足部機能とバランス能力との関連を認めなかった。地域在住中高年者において加齢により足趾把持力低下は著明であり,バランス能力低下に影響していることが示唆された。足趾把持力は中高年者の足部機能において立位における動的・静的バランス能力にとって重要な位置づけをしめていると考える。【理学療法学研究としての意義】足趾把持力は高齢者の転倒因子や活動能力と関連が強くバランス能力低下との検討が行われている。中高年者におけるバランス能力改善のアプローチ方法の選択が可能であると考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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