理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0593
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口述
大腿骨前脂肪体の柔軟性と筋力・膝関節可動域の関係性
―Shear Wave Elastographyを用いた健常高齢者群とTKA群との比較―
水島 健太郎久須美 雄矢水池 千尋三宅 崇史稲葉 将史石原 康成堀江 翔太立原 久義山本 昌樹
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抄録

【目的】人工膝関節置換術(TKA)症例の関節可動域(ROM)制限や筋力低下には様々な原因があげられ,膝関節周囲の脂肪体硬化も原因の一つである。膝関節前面には,大腿骨前脂肪体(PFP)と膝蓋下脂肪体(IFP)がある。IFPは,痛みや可動域制限に関与すると報告されているが,PFPが膝関節にどのような影響を及ぼすかに関して,我々が渉猟する限り詳細な報告を認めなかった。そこで本研究の目的は,超音波エコー(US)のShear Wave Elastographyを用いて,健常高齢者群(N群)とTKA群のPFP柔軟性を評価し,TKA群のPFP柔軟性とROMおよび筋力の関係性を比較検討することである。【方法】対象は,N群15例22膝(男性5人,女性10人,平均年齢73.1±4.0歳),TKA群13例16膝(男性3人,女性10人,平均年齢70.4±9.4歳)とした。方法は,測定肢位を端座位とし,US(ACUSON S3000,SIEMENS社製)のShear Wave Elastographyを用いてPFPの組織弾性を測定した。大腿遠位部の長軸走査にてPFPを同定し,大腿直筋筋腱移行部と膝蓋骨上縁を結ぶ中点において短軸走査に変更した上で,PFPの組織弾性を測定した。測定角度は,膝関節伸展位(伸展位)と90°屈曲位(屈曲位)の組織弾性を各3回測定し,その平均値を算出した。膝伸展筋力はマイクロFET2(日本メディックス社製)を用い,膝関節90°屈曲位で5秒間の最大等尺性収縮を2回行い,平均値の体重比(kgf/kg)を算出した。算出したPFP柔軟性を群間で比較し,また,TKA群におけるPFP柔軟性と膝関節屈曲および伸展ROM,膝伸展筋力との相関を求めた。検者は,測定の信頼性を高めるため,事前に測定の練習を十分に行った同一者とした。統計処理は,N群とTKA群のPFP柔軟性の比較にはウェルチのt検定,マンホイットニー検定を用い,TKA群におけるPFP柔軟性と膝ROMおよび伸展筋力との相関にはピアソン相関係数を用いて,有意水準を5%未満とした。【結果】伸展位ではN群2.50±0.31m/s,TKA群2.90±0.64m/sであり,TKA群がN群に比べ有意にPFPの柔軟性が低下していた(p<0.05)。屈曲位ではN群2.20m±0.56/s,TKA群3.49±1.30m/sであり,伸展位と同様にTKA群がN群に比べ有意にPFPの柔軟性が低下していた(p<0.01)。TKA群におけるPFP柔軟性と膝ROMおよび伸展筋力との相関は,屈曲位と膝伸展筋力のみ負の相関が認められ(r=-0.72 p<0.05),膝ROMとPFP柔軟性には相関が認められなかった。【考察】PFPは,膝蓋上囊と大腿骨の間に存在する脂肪組織である。林は,膝関節屈伸運動における膝蓋上囊の滑走性を維持するためにPFPは重要な組織であり,両組織は表裏一体の関係で膝関節屈伸運動に関与すると述べている。巽らは,TKA術後に膝蓋上囊の癒着は,膝前面痛や術後機能障害に大きく関係していると述べている。今回の結果より,TKA術後症例では,膝蓋上囊だけでなくPFPも硬化していることが明らかとなった。また,PFPの柔軟性の変化は,TKA群はN群に比べ伸展位で平均1.2倍,屈曲位で平均1.6倍と,屈曲位でよりPFPの柔軟性が低下していた。また,筋力においては,屈曲位のPFP柔軟性と膝伸展筋力に負の相関が認められた。これは,PFP柔軟性低下に伴い膝伸展筋力が低下していることを意味している。PFPは,膝蓋上囊と連動した動態を示すことが推測されるが,PFPの柔軟性低下によって,膝蓋上囊に付着する膝関節筋や,膝蓋上囊およびPFP周囲の広筋群の収縮効率を低下させることが,膝伸展筋力の低下につながったと考えられた。このことから,TKA術後症例では,膝蓋上囊だけでなく特に膝屈曲位でPFPの柔軟性を改善する必要があると思われる。今後,PFP柔軟性改善アプローチにより,膝伸展筋力が変化するのかを,客観的に検証する予定である。【理学療法学研究としての意義】証拠に基づく理学療法を行うためには,客観性の高い評価が必要である。超音波エコーを用いた組織弾性の客観的評価が,TKA症例における機能障害の理解や治療の発展にも寄与すると考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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